次の瞬間、あたしごとドサリと土間へ倒れ込むお母さん。
 あたしはすぐに飛び起きて上がりかまちに飛び上がると、それから茫然としている聖弥くんの横に並んでその手を握った。
「お母さんっ! 聞いてくださいっ!」
 いままで、主旋律を歌いたいなんて思ったことは一度もない。
 ずっと副旋律がいい、みんなを支える『アルト』がいいって、そう思ってきた。
 でも、今日からそんなこと言わないっ!
 聖弥くんの主旋律の人生。
 その横で、あたしも一緒に主旋律を歌いたい。
 めいっぱい、元気よく。
 めいっぱい、あたしらしく。
 さぁ、みんな聴いて。
 あたしにしか歌えない、あたしの『ソプラノ』をっ!
「聖弥くんっ! あたしっ、来年の一月十五日で十六歳になるのっ! 来年の四月四日、聖弥くんはいくつになるっ?」
「え?」
 ポカンとする聖弥くん。
 あたしはもう一度、大きな声で尋ねる。
「あたしはそのとき十六歳っ! 来年の四月四日っ、聖弥くんはいくつっ?」
 ギューッと手を握って、聖弥くんを見上げる。
 目を大きくしてあたしを見下ろしていた聖弥くんは、すぐにハッとしてギュッと手を握り返した。
「そうか、十八歳だな」
「そうっ! あたしは十六歳、聖弥くんは十八歳っ!」
 土間に尻もちをついているお母さんが、あたしと聖弥くんを見上げた。
「お母さんっ! 来年の四月四日っ、あたしたち結婚しますっ! 聖弥くんをあたしにくださいっ!」
 はぁ? という顔のお母さん。
 そのときっ。
「よく言ったぁぁぁーーーっ!」
 お母さんのその向こう、玄関のほうから聞こえた聞き覚えのある声。
「日向ちゃんっ!」
「日向っ!」
「ひなっ!」