聖弥くん、もういいよ。
 聖弥くんを好きになった、あたしが悪かった。
 聖弥くんが好きになってくれたことを、喜んだあたしが悪かった。 
 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶあたしのせい。
 あたしが居なければ……、あたしさえ居なければ……。
「ちょっとっ、あんたたちなにすんのよっ!」
 お母さんの怒鳴り声。
 同時に、ドドンとあがりかまちが鳴る。
「セイヤ兄ちゃんをいじめるなっ!」
「セイヤにいたんをいじめりゅなっ!」
 ハッと見ると、ホウキを持った陽介と、絵本を持った光輝が、聖弥くんの前に立ち塞がって、お母さんを押し返していた。
 ちょっと後ろへさがった聖弥くんが、慌ててふたりの後ろ襟を掴む。
「こら、ちょっと待てっ」
「なんなのっ? この子たちっ! 聖弥っ、ママの言うとおりにするのっ! ママがあなたを育て間違えたって言われたらどうするのっ?」
 ドドンと陽介と光輝を押しのけたお母さんの手が、聖弥くんの胸倉を掴んだ。
 同時に、陽介が居間の畳に転がって、光輝がドサリと土間へ落ちる。
「光輝っ!」
 思わず光輝に駆け寄った。
「うわぁぁぁーーーんっ!」
 泣き出した光輝。
「光輝っ! 大丈夫かっ!」
 晃も駆け寄る。
 もう、なんなの?
 いい加減にして?
 いい加減にしてほしいのは、こっちのほうよっ!
 聖弥くんのためって言いながら、自分のことばっかりっ!
 もう、あたし許せないっ!
「ちょっとっ! 聖弥くんを放してっ!」 
 お母さんに飛び掛かる。
 続けて、聖弥くんの胸倉を掴んでいたその手に思いきり抱き付いて、それからドンと居間のあがりかまちを蹴飛ばした。
「きゃあっ!」
 お母さんの悲鳴。