そう言ってあたしは、その場にお父さんのイチゴが入ったバケツを置いて、聖弥くんを止めようとカッパを脱いだ。
 そのときだ。
 ドンドンドンっ!
 激しく叩かれた、玄関の戸。
 誰?
 こんな嵐の夜に。
 戸に駆け寄る。
「どなたですかっ?」
「あ、日向ちゃんかい? 俺だよ。山家」
「山家さんっ? ちょうどよかったっ! ちょっと手伝って欲しいんだけど――」
 そう言いながら戸を開けると、そこには……。
「日向ちゃん……、ごめん……」
 ずぶ濡れの山家さん。
 そして、その後ろに、フード付きのロングコートを着た、品のいい女性。
「え? あの……」
「日向ちゃん、俺、どうしても断れなくて……」
 山家さんがうなだれてそう言ったかと思うと、突然、そのコートの女性が山家さんを押しのけた。
「どきなさいっ!」
 戸の向こうへ消える山家さんの姿。
 続けて、ゆっくりと土間へ足を踏み入れてきた、コートの女性。
「あなたが、日向さん?」
 うわ、すごい美人。
 なんであたしの名前知ってるの?
「え? はい。どなたですか?」
「どなたですって? よくもまぁ、聖弥を惑わせてくれたわね」
「はい?」
 えっ?
 もしかしてっ……。
 すると、居間から土間を見下ろしていた聖弥くんの声が、あたしの後ろで小さく聞こえた。
「母さん……」
 やっぱりっ!
 きききっ、キヲツケっ!
「はっ、初めましてっ! あたしっ、宝満日向ですっ! こ、こんな格好でごめんなさいっ! いつも聖弥くんにはお世話になって――」
「ほんと、お世話しすぎよね。もういい加減にしてほしいわ」