ぬかるみになった土に足を踏み入れた晃が、倒れたラックの下を指さしている
 あった。
 ひと株だけ残っていた、まだ無傷のお父さんのイチゴ。
 這うようにしゃがんで、ザクザクとバケツに移す。
「晃っ、ほかにないっ? そっちのラックを起こして――」
 そのときっ。
 ガチャーン!
 ほんの数十センチ先に、また瓦が落ちた。
「きゃっ!」
 頭の上にバラバラっとガラスが落ちる。
 広くなった割れのせいで、さらに大粒の雨がドドドと温室に降り込んだ。
「姉ちゃんっ! もういいっ、家に戻ろうっ!」
 晃に腕を引かれて立ち上がる。
「でもっ」
「早くしろっ!」
 温室から飛び出すと、庭はまるで池のよう。
 バケツをカッパで覆いながら、バチャバチャと庭の水を跳ね上げて玄関へ走る。
 次の瞬間、あたしと晃は転がり込むように玄関に飛び込んだ。
 同時に、ピシャリと閉まった玄関戸。
 振り返ると、めいっぱい戸を体で押して閉めた陽介が心配そうにあたしを見ていた。
 あがりかまちの上では、光輝がめいっぱい背伸びしてあたしたちにタオルを渡そうとしている。
「うわ、陽介、光輝、ありがとうっ!」
「それ、お父さんのイチゴ?」
「うん。助けて来たからね? もう大丈夫」
 居間のほうを見ると、居間の向こうの仏間の襖が開けられていて、お布団から立ち上がろうとしている聖弥くんが見えた。
「聖弥くん、起きちゃだめ。大丈夫だから寝てて?」
「いや、上の段にあるハウスは早くアンカー打たないと。晃と行ってくる。男手が居るから吉松にも電話した」
「聖弥くん、熱があるもん! お願いだからじっとしててっ?」