「うわ、天井に穴が開いてるじゃない!」
「姉ちゃん、残ったガラスも落ちて来るぞっ! あんまり近づくと危ねぇ!」
「でもっ、お父さんのイチゴがっ!」
 温室の一番手前の屋根ガラスが何枚も割れている。
 見回すと、庭を囲む雑木林がわしゃわしゃと枝を揺らして、風に葉っぱを鳴らしていた。
 雨も強い。
 頭からかぶった作業用のビニールカッパを、火に掛けられたポップコーンみたいな雨粒がバチバチと叩きつける。
「姉ちゃん、あそこ見ろっ。アパートの瓦が降ってきたんだっ! すぐ横の木が折れて屋根を圧し潰してるっ!」
 うわ、ほんとだっ!
 聖弥くんが住んでいた部屋の上、その向こうの大きな木の太い枝が折れて、屋根の一部を圧し潰している。
 そこから弾き飛ばされた何枚かの瓦が、温室の屋根に落ちたんだっ。
 見ると、滝のように叩きつける雨が土をえぐって、そこに瓦と割れたガラスが突き刺さっている。
 直植えのお父さんのイチゴは、もうめちゃめちゃになっていた。
「あたしっ、お父さんのイチゴ、助けるっ!」
「ええっ? おおお、俺もっ!」
 ドアを吹き飛ばすように開けて、温室に駆け込む。
 日が暮れてずいぶん経った温室はもう真っ暗だ。
 あたしは、温室の隅に置いていた移植ごてとバケツをひったくると、直植えのお父さんのイチゴに駆け寄った。
 お父さんのイチゴ。
 お父さんの夢が詰まった、大事なイチゴ。
 お父さんが、あたしの誕生日がイチゴの日だったからそれを記念して植えた……、あたしが一番嫌いなイチゴ……。
「ぜんぶダメになってるっ?」
「いやっ、姉ちゃんっ、ここにあるぞっ!」