「彼女の料理、最高に美味いんだぜ? なんか、ちょっとドジっ子系かと思っていたのに、めちゃくちゃ料理が上手くて、弟たちから慕われてて、家庭的で温かくて……」
「正直、こんな素敵な子が現実に居るなんて、信じられないって思った」
「そして、もっと信じられなかったのは、夢の話だ。彼女と、彼女の弟たちが語った夢……」
「その夢に、俺はもうこれ以上ないくらいに打ちのめされた。それぞれが思い合い、その夢はぜんぶ愛する誰かの幸せに繋がっている……。こんな素敵なことはない」
「その寸前まで、俺は、自分の実力で再デビューしたい、彼女と一緒にユニットでデビューしたいって、そう夢見ていた。でもそれが、単なる独りよがりな夢で、母さんと同じ、自分のためだけの夢だったんだって、彼女たちの夢の話を聞いて気がついたんだ」
「それからすぐ思ったよ。俺もこんな素敵な愛情あふれる中に身をおきたい……、誰かの幸せに繋がっている夢を持ちたい……。そして、ずっと……、ずっと彼女のそばに居たい……ってな」
 ダメ。
 泣いちゃいそう。
「そして……、彼女のお母さんに会って、その思いはもっともっと強くなったんだ。だから、日向、俺の夢は――」
 すっと伸びた彼の手が、あたしの頬に触れた。
「俺の夢は、日向……、お前を幸せにすることだ。お母さんの夢を叶えて、弟たちみんなの夢を叶えることだ」
 もうっ!
 目が開けられないじゃないっ!
「ぐしゅん……。もういい。もういいよ……」
 あたしは熱くなった目頭をスウェットの袖で押さえて、それから彼を名前で呼んだ。
「聖弥くん」
 彼がゆっくりとこちらへ顔を向けた。
 彼の瞳も、しっとりと雫を湛えている。
 嬉しい。