「そうなのよぉ。小学も中学も一緒に合唱しててね? 彼女ったらいっつもアルトが専門なんだけど、声がぜんぜんイケてなくてぇ……、ん?」
 あ、なんか嫌な予感。
 小夜ストームが荒れ狂う前触れを感じる。
「ちょっと聖弥くんっ! なんで宝満日向がイチゴの子って知ってるのっ? もしかしてパンツを見たのっ?」
 いや、だからイチゴ柄とか持ってないって。
 三条くんの胸に両手を置いて、ピョンピョンと飛び跳ねる小夜ちゃん。
 その背中越しに彼はじとりとあたしを見て、それから昨日と同じように、あたしに向かって小さく手招きした。
 なによ。
 パンツなんて見せないんだから。
 あたしは、倒れた翔太の腕を引っ張って起き上がらせてから、ちょっと身構えながら廊下側の窓のそばまで近づいた。
 恐る恐る、彼の手招きに応える。
「えっと……、なに?」
「お前、なんで合唱やらないんだ」
「え?」
 ぎゃーぎゃー言ってる小夜ちゃんの頭を押さえつけて、彼は真剣な瞳をあたしに向けた。
 予想外の言葉。
 なんでって、そりゃ、うちはイチゴ農家だし、お手伝いは大事だし。
「お前、もしかして農園の手伝いで歌えないのか?」
「え? えっと……、まぁ」
「なんで親の仕事を子供が手伝う必要があるんだ。お前、親の言いなりか」
「言いなり?」
 言いなりなんかじゃない。
 大好きなお母さんがあたしたちのために頑張ってくれてるから……、弟たちも一緒に頑張ってくれてるから……、あたしも頑張ってるんだもん。
「そ、そんなんじゃないもん。あたしはお母さんのために――」
 ちょっとムッときて言い返し始めた、その瞬間。