「最初は母さんの顔を四六時中見なくて済むと喜んだ。しかしあの部屋へ通い続けるうちに、なぜか俺の心はどんどん陰鬱になっていったんだ」
「俺はいったい何者だ。なにをしようとしているんだと……、そんなことばかり考えてな。カーテンを開ける気にすらなれなかった」
「そんなときだ。俺は、カーテンの向こうから、ときおり透き通った歌声が聞こえてくることに気がついた」
「普通は歌が外から聞こえたら気が散って仕方ないもんなのに、なぜか、その歌はまったく俺の気分を害さなかったんだ。それどころか、俺はいつも、いつの間にかその歌声に聴き入ってしまっていた」
「不思議だったよ。その歌を聴き終わると、なぜかとても気分が軽くなるんだ」
「それから俺は、カーテンを開けるようになった。部屋の中が明るくなって、歌声で気分もよくなって……。そうしているうちに、俺はとうとう……」
「彼女を見つけたんだ。ちっちゃなイチゴのような、とても愛らしい彼女……。温室の中で、まるで植物に語り掛けるように優しい歌声を響かせる……彼女を」
「親から言いつけられているのか、毎日、忙しそうに家事をこなしているが、それでいてまったく辛そうにしてなくて、弟たちと楽しそうに笑い合って……」
「来る日も来る日も、俺はその歌声に耳を傾けた。よく聞こえていたのは、『翼をください』だな」
「毎日が地獄のように辛いのに、その透き通るような歌声に包まれたとたん、俺の傷だらけの心はあっという間に癒えていくんだ」
「彼女を見つけて、俺の日常は一変した。あの部屋に行くのが楽しくて、彼女の姿を眺められるのが嬉しくて……」
「俺は、彼女に救われた」