「まぁ、俺はトーナメントの真ん中くらいで敗退……、当然だ。その程度の実力だったんだ」
「なのに、次のトーナメントが始まると、なぜか俺は準レギュラーとしてそのまま番組に出演することになった。耳を疑ったよ。なんの成果も残してないのに」
「そうやって、小学生の間、俺はキッズアイドルとしていくつかの番組に出演枠をもらっていた。そして、中学生になる直前……」
『三条さん、今年度いっぱいで契約の更新はしないことになりまして――』
「突然の契約打ち切り……。ちゃんとした理由は告げられなかった」
「でも、共演していたひとつ年上の子が俺に教えてくれたよ」
『俺、ディレクターが話してるの聞いたんだ。お前、態度が悪いから降ろされたんだよ。それにお前の母親もウザいんだってよ。なんの実力もない息子をゴリ押ししてくるから』
「俺が番組に出られていたのは、ぜんぶ母さんの強引な押しがあったからだったのさ。なのに、俺はそうとう思い上がっていたんだと思う」
「そして、俺は夢見るようになったんだ。いつか自分だけの力でもう一度ステージに立ちたいってな」
「母さんはそれからも相変わらずだった。いろんな劇団や事務所を訪ね歩いて……」
「支援してくれるのはありがたい。しかし、それではいつまでも俺は保護者付きのキッズアイドルだ。だから、俺は母さんに言ったんだ」
『歌の仕事はしたくない。普通に学校へ行って、普通に勉強がしたい』
「もちろん、辞めるのは一時的のつもりだった。母さんが支援に走らないように、再開するときにはこっそり自分だけでやるつもりだった」
「しかし、その次に飛び出した母さんの言葉に、俺は唖然とした」