「三十八度……、もう、やっぱり熱があるじゃない」
 蛍光灯が古くなって、ちょっとぼんやりしている仏間。
 お客さん用のお布団、先週干しといてよかった。
 体温計をスウェットのポケットにねじ込みながら、掛布団を彼の首元まで引き上げる。
「心配するな。大した熱じゃない。でもこれ、よかったのか? お父さんのパジャマ」
「いいよ? まだ捨てられなくてぜんぶそのままだったの。下着もぜんぶあってよかった。残念だったね。イチゴ柄のトランクスじゃなくて」
 じわっと口をへの字にした三条くん。
 でもこれ、どういうこと?
「あんなにずぶ濡れになって、もしかして、ずっと雨の中に居たの?」
「は? そういう日向もずぶ濡れだったじゃないか。まぁ、家を出ていろいろ考え事しててさ。遊歩道のベンチに座ってたら、急に降り出したんだ」
 はぁ……。
 ベンチに座って、あの土砂降りにずーっと降られてたのね。
「お家に帰ればよかったのに」
「家には帰らん。そのつもりで出て来たんだ」
「せっかくお母さんと話して納得して戻ったのに、またなにか揉めたの? あーあ、ほんと面倒くさい男」
「なんだそれ、水城先生の真似か? 俺はまったく納得なんてしてない。脅し上げて無理やり連れ戻されたんだ」
「脅された? お母さんに?」
「ああ。家に戻らなければ、この宝満農園がどうなっても知らないぞ……ってな」
 お母さんがそんなこと言ったの?
 そんなのウソに決まってるじゃない。
「あいつは人でなしだ」