「えっと、なにしにって……、その」 
「ちょっと、頭を出しなさいっ!」
 思いきり背伸びをして、肩のタオルをバッと広げた。
 目を丸くした三条くんが、ちょっと首をすくめて腰を折る。
 もうっ! 
 なによ、なによ、なによっ!
 なんで戻って来たのっ!
 主旋律の人生をって、せっかく見送ったのにっ!
「日向……」
「もうっ! 風邪ひいたらどうするのっ! 熱を出しても看病してあげないんだからっ!」
 あたしは思わず、タオルを三条くんの頭にかぶせて、それから思いきり胸に引き寄せて抱きしめた。
「うげっ」
「うげっじゃないっ! なんにも知らせないで、どういうつもりっ? ほんとに許さないんだからっ!」
 三条くんを抱きしめたまま、土間に座り込む。
 すると、いままでずっと胸の奥でチクチクしていた痛みが突然、グッと喉に押し寄せた。
 なんで?
 なんで涙が出るの?
 悲しくないのに……、辛くもないのに……。
 どうしてなのか、自分でも分からなかった。
 気がつくと、あたしは三条くんを抱きしめて、大声で泣いていた。
「ううっ、うううっ、うわぁぁぁーーーん!」