「あ……、晃。ごめん、ちょっとタオル取って」
「帰って来たらバッグが居間でひっくり返ってるし、どこ捜しても姉ちゃんは居ねぇし。どこ行ってたんだよ」
「ごめんね? 風が出て来たね。ハウス大丈夫かな」
「その前に、すぐシャワーしろよ。風邪ひいちまう」
 足元の土間に、ぽたぽたと落ちる水滴。
 制服スカートの裾が、まるで泣いているみたい。
 トントンっと飛んで水滴を落として、後ろ髪をギュッと絞った。
「ほら、タオル」
 心配そうな晃。
 ごめんね。
 わけはあとで話すから。
 居間から一段下りて、晃がタオルを持った手をこちらへ伸ばした。
 その瞬間、玄関の外で地面を叩く雨の音が一層激しくなって、ピカッと稲光が走った。
 そのときだ。
 玄関戸の模様ガラスの向こうに見えた、誰かの影。
 ドン、ドン……。
 続けて、その影が弱弱しく玄関戸を叩いた。
 誰?
 もう、いつもなら日が暮れる時間。
 晃から受け取ったタオルを首に掛けて、あたしはゆっくりと玄関戸へ近づいた。
 えっ? もしかして、このシルエットはっ。
「三条くんっ?」
 思わず、吹っ飛ばすように戸を開けた。
 すると、そこに立っていたのは……。
「日向……、実はちょっとわけがあって、今夜――」
 ずぶ濡れの、三条くん。
 ずいぶん古い型のセイラーバッグを手にぶら下げて、頭ふたつ高い瞳がそっとあたしを見下ろしている。
 前髪からぽたぽたと雫が落ちていた。
 そのぽたぽたと、あたしの目の前のゆらゆらが重なる。
「わけ? どうでもいいようなわけだったら、許さないんだから」
「え? いや、話すと長く――」
「山家さんから聞いたもん。なにしに来たのっ?」