「聖弥くん、俺にはなんにも言わなかったけど、俺がお母さんに情報を流していたことに……、たぶん気づいていたんだと思う。お母さんが来ても驚かなかったし……」
「きっと、分かってて、敢えて、その決心を俺に話したんだ」
 そっか。
 でも、そこでちゃんとお母さんの気持ちを聞いて、そして思い直したんだね。
 それが一番いい。
 そうでないと、三条くんのお母さんがかわいそう。
 三条くんのことを思うあまり、ちょっと厳しくなってるのかもだけど、でも、子どもを想わない親はいないもん。
 お母さんが三条くんを大切に思っている気持ちが、ちゃんとまっすぐ彼に伝わっていないだけだもん。
 これでいい。
 これでいいの。
「だから、日向ちゃん……、聖弥くんのお母さんは、たぶん、日向ちゃんのこと……」 
 山家さんが、ゆっくりとあたしのほうを向いた。
 メガネの奥の瞳が、ちょっとうるうるしている。
 大丈夫だよ? 山家さん。
 ちゃんと分かってるから。
 これって、山家さんが悪いんじゃないもん。
「じゃ、あたしは、三条くんのお母さんからすれば、彼に付いちゃった、めっちゃ『悪い虫』だね」
 あたしのせいだ。
 あたしのせいで、三条くんのお母さんの夢まで壊してしまうところだった。
「ごめん。ほんとにごめん」
「大丈夫。あたし、なんとも思ってないよ? だって、山家さんの報告は仕事なんだし、お母さんだって、三条くんのことが心配だから様子を知りたかったんだし」
「日向ちゃん……」