別に驚くことじゃない。
 ん? 
 小夜ちゃん、いま『聖弥くん』って言った?
 駆けて行った小夜ちゃんを目で追うと、彼女は廊下に飛び出して長身の男子に思いきり抱き着いている。
「ねぇねぇ、聖弥くぅん、一緒に部活動紹介に行こうよぅ。合唱部っ!」
 よく見ると、小夜ちゃんが見上げているその顔は、ちょっとばかし見覚えのある顔。
 昨日と同じで、すっごく面倒くさそう。
 そう。彼は、因縁の……、三条聖弥。
 左の頬にシップ貼ってる。バッグが当たって、ビンタが炸裂して……。
 うわ、目が合った。
 こっち見ないでっ。
 なに? 
 小夜ちゃんと友だちなの?
 すると、もしかしてあんたも、『ガオカ』の子?
 思わず目を逸らして、それから横目でチラリともう一度彼を見ると、小夜ちゃん越しの彼はまだじっとあたしを見ていた。
 あー、なんか言いたそう。
 その整った顔の不気味な無表情に負けて、あたしはちょっとだけ小さく頭を下げた。
 すると彼は、さらに面倒くさそうに小夜ちゃんへ視線を移す。
 くーっ、嫌な感じ!
「ちょっと離れろ。小夜、俺は合唱なんてやらないって言ったろ? 俺なんかより、誰かもっと仲のいいやつと一緒に行けよ」
「えー? 聖弥くんはアタシの一番の仲良しよ? ライブで聴いた聖弥くんの歌が忘れられないのっ。ね? 一緒にやろう? アタシの二番目に仲良しの彼女はもう合唱しないって言ってるから」
 振り返る小夜ちゃん。
 え? あたしって、小夜ちゃんの二番目の仲良しなの? 
 知りませんでした。
「へぇ、お前、イチゴの子と仲良しなのか」