「詳しくは教えてくれなかったけど、とにかく名門私立高校に入学させるためだって、そう言ってた。どうも、中学三年現役のときの名門私立受験は全滅だったらしいし」
「社長も同じ気持ちだったのか、『受験勉強は、家を離れた集中できる環境で』って言って、この部屋を彼に与えたみたい。だから去年一年、彼は、寝泊り以外はずっとこの部屋で過ごしてたんだ」
「それなのに、なぜか聖弥くんは今年、お母さんが合格を願っていた名門私立高校を一校も受験しなかった。それどころか、お母さんが一番嫌がっていた、地元の公立高校、日向ちゃんの高校を受験して、そして進学したんだ」
「そのうえ、もう受験は終わったのに、家に帰らないでここで独り暮らしするなんて言い出したもんだから、お母さんはもう怒りまくって手がつけられなかったみたい」
「でも、入学してすぐ、聖弥くんが『高校生の間にいろんなオーディションを受けて、実力での芸能界復帰を目指す』って言ってたと報告したら、お母さんはそれでだいぶ落ち着いたみたいでさ」
「ごめんよ、日向ちゃん。この春のイチゴの旬のときから、日向ちゃんのことを報告する機会が多くなった」
「そして、ついこの前、仕方なく報告したんだ。『聖弥くんが、もう芸能界復帰はやめて、隣の農園の手伝いをやりたいって言ってます』って」
 そこで、山家さんは言葉を切った。
 あ……、それって、彼がお母さんに言ったのと同じ。
 三条くん、本気だったんだ。
 本気で、あたしと一緒に農園を頑張ろうと思ってたんだ。
「それで昨日、お母さんがここへ来て、そして聖弥くんと話して……」