振り返って台所のほうを見ると、流しの下の隅っこにポツンと不燃物の袋が置かれていた。
 何気なく、袋の中を見る。
 入っていたのは、たくさんのガラス瓶。
「これって……」
 ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのジャムの空き瓶。
 そして、そのいくつかの瓶の中には、小さくてシックなメッセージカード。
『とっても美味しかったです。また楽しみにしています』
 あの郵便受けに入れられていたジャムの空瓶のメッセージとまったく同じ、その文言。
 どういうこと?
 あれって、三条くんだったの? 
『あああ、あの、ごっ、ご飯はどうしてるの?』
『メシか? 外食はあんまりしないな。買って来たものを食うことが多い。一番食うのは食パンだな』
 もしかして、食パンって、あたしのジャムを食べるため?
 もうっ、なんなの?
 お礼を言わせてよ。
 どこに行ったの?
 これはなに?
 引っ越し?
 あたしには、ひと言もそんなこと……。
「日向ちゃん」
 うわっ。
 びっくりした。
 突然、後ろから掛かった声。
「やっ、山家さんっ」
「ごめんよ。びっくりさせて」
 開いたままのドアに手を置いて、こちらを覗き込んでいたのはお隣の山家さん。
 山家さんなら、なにか知ってるかも!
「ねぇ、これ、どういうこと? 三条くん、どっか行っちゃったの?」
「すまねぇ。俺のせいだ」
「え? 山家さんの……せい?」
 もっと意味が分からない。
「聖弥くん、お母さんの説得を受け入れて、昨日、家に帰って行ったよ」
「説得?」 
 山家さんが、ゆっくりと板張りに腰をおろして土間に足を投げ出した。
 聞こえた大きなため息。
 ポケットから取り出した、一枚のカード。