びゅうびゅうと耳をかすめる風。
 見上げると、もういまにも雨が降り出しそう。
 雑木林が切れたところで、アパートへ続く砂利道へ駆け入る。
 砂利が弾かれる音。
 見えた。
 三条くんのアパート。
 二階へと続く、象の鼻のような鉄製の外階段は、相変わらずボロボロだ。
 でもなぜか、今日はぜんぜん怖くない。
 あちこち開いているサビだらけの穴なんか目もくれず、あたしは足がちぎれるくらい力いっぱい階段を駆け上がった。
「三条くんっ!」
 ドアを叩く。
 返事はない。
 どうしたの?
 「三条くんっ! 三条くんっ!」
 もっと激しくドアを叩いても、まったく反応は無し。
 あーっ、もうっ!
 思わず、ドアノブに手を掛けて思いきり引っ張った。
 うわっ!
 なんの抵抗もなく開いたドア。
 カギが掛かっていない。
「三条くんっ! 入るよっ?」
 そう声を張り上げて、あたしは部屋の中へ踏み込んだ。
「え……? どういうこと……?」
 薄暗い、三条くんの部屋。
 息を大きく吸って、もう一度、落ち着いて見回す。
 ない。
 なにもない。
 ベッドも、テーブルも、マグカップも……、なんにもない。 
 ローファーを脱いで、そっと板張りへ上がる。
 あたしが不法侵入したお風呂場は窓がしっかり閉められていて、お風呂のフタが手前の壁に立て掛けられていた。
 畳の部屋にはカーペットだけが残されていて、その真ん中に、あたしが足を引っ掛けたガラステーブルの脚の跡が、ほんの少しくぼんで残っていた。
 どういうこと?
 先週末まで、お部屋には灯りが点いていたはずなのに。