高校を辞めて、農園の仕事の間に短時間のアルバイトをして、夜は居酒屋さんでも働いて……、あたしが弟たちをちゃんと高校まで行かせるもん。
「日向……」
「お母さんは心配しなくていいから。いまはとにかく手術のことだけ考えててね? あたし、帰る」
「あ、待ってっ、うっ!」
「お母さんっ!」
 あたしを呼び止めたお母さんが、頭を押さえて顔をしかめた。
「お母さん、ごめんなさい。お願いだから無理しないで」
「大丈夫よ? でも日向、お願いだからあなたも無理しないで? 本当にお願い。だって三条さんが……」
 え?
 三条くん?
 彼がどうしたの?
「だって、このままじゃ三条さんがかわいそうだもの」
 かわいそう?
 あたしが目を丸くすると、お母さんは眉をハの字にしてちょっと笑って、それからゆっくりとベッドに横になった。
「三条さんがね? 晃が成人するまで自分が農園を手伝うって言ってくれたの。もし晃が農園を継ぐ気持ちがなくなったら、自分がそのまま継ぎたいって」
「え? どういうこと?」
「どういうことだと思う? 日向と一緒に、農園を頑張りたいってことでしょ?」
 お母さんが、床頭台に置かれていたハンカチタオルを取って、そっとあたしの頬に当てた。
「彼、表情には出さないけど、日向のことがとっても好きなのね。『農園を継ぎたい』って、『娘さんを僕にください』って意味だもの」
 三条くんが、そんなこと……。
「どうしてそんなに日向のことを好きになってくれたの? って聞いたら、ニヤッとして、『可愛いですから』……、だって」
 えっ?
 えーっと。
 そんなの冗談に決まって――。