お母さんが言おうとしていること。
 でも、それじゃお母さんが夢を諦めてしまうことになっちゃうもん。
「お母さん?」
「日向、お母さんはもうこれ以上、日向やみんなに迷惑を掛けたくないの」
「でもっ」
 思わず、ベッドのお母さんに顔を寄せた。
 お母さんは静かに微笑んでいる。
「あのお家はしばらくはそのままで、農園だけ閉めてしまおうと思う」
「お母さん……」
「難しい話だけど、イチゴに切り替えてからずっと借り重ねてきたお金、すこしずつ返しているけど、もう……、無理かもしれない」
 苦笑いのお母さん。
 それも知ってる。
 どれくらいのお金を借りているのかは知らないけど。
「大丈夫。あたし、高校辞めて働くから。お昼は農園をやって、夜は――」
「ありがとね……、日向。でも、それはあなたがすることじゃない」
 思わず、上を見上げた。
 天井がゆらっとする。
 お母さんが、そっとあたしの手を握ったのが分かった。
「もし、お金が返せなくなったら、あのお家と土地を代わりにあげる約束になってるから、なんにも心配は要らない」
「あたしは……、あたしは……」
「吉松のおじさんにも相談したけど、もう頑張らなくていいんじゃないかって……」
 突然、頬を暖かい雫が伝った。
 イチゴ農園がなくなっちゃったら、あたしはもうお母さんの夢の手伝いができなくなる。
 お母さんに償うことも、あたしの居場所を見つけることもできなくなる。
 それはイヤ。
 お母さんがもし働けなくなっても、あたしが代わりにぜんぶやるもん。