でも、ジャムの話はそんなに間違ってない。
 うちはひと粒いくらで売られるような、有名なブランドのイチゴは作ってない。
 でもね? 愛情はほかの農家さんには負けてない自信がある。
 ひと粒ひと粒を大事にして、さらに、お母さんが素敵な歌を毎日歌って聴かせてるから、ブランドイチゴに負けないくらい美味しいもん。
 あたしも一緒に歌ってる。
 だから合唱部を辞めても、ぜんぜん寂しくなかった。
 でもまぁ、こんな話をしても、小夜ちゃんだけじゃなくて、あの『星降が丘』で暮らしている人たちには、たぶん分かってもらえないんじゃないかな。
「なぁ、日向。もう、『ジャム子』って言われるの嫌だろ? ハッキリ言ったほうがいいんじゃねぇか?」
 そりゃぁ、もうちょっと可愛いあだ名で呼んでくれたほうが嬉しいかなって思うけど、まぁ、小夜ちゃんだし。仕方ありません。はい。
「あああーーっ! 聖弥くんだっ!」
 そのとき突然、大音量で教室に響き渡ったアニメ声。
 ハッと顔を上げると、小夜ちゃんが翔太の肩に手を掛けて伸び上がって叫んでいる。
 小夜ちゃんって、こういう軽いスキンシップに無頓着なのよね。
「うわっ!」
 次の瞬間、ドカンと音がして翔太が視界から消えた。
 駆け出した小夜ちゃん。
 椅子がひっくり返って、翔太が床になぎ倒される。
「せぇーいやくぅぅぅん!」
 うわぁ、久々見た、小夜タックル。
 何度このタックルで膝を擦りむいたことか。
 続けてガシャーンと椅子がひっくり返ると、小夜ちゃんが床に投げ出された翔太の背中を思いきり踏みつけて乗り越えた。
「ゔげぇっ!」
 うわー、痛そう。
 でもこれは、小夜ちゃんの平常運転。