「脳……腫瘍?」
「うん。良性だから、切れば良くなるんだって」
 あのあと、小夜ちゃんはなぜかバッティングセンターへ行くと言い出して、翔太を引っ張って宝満農園をあとにした。
 卵焼きのことはすっかり忘れてたみたい。
 でも、あのふたり、けっこうお似合いかもね。
 ふたりが帰ったあと、あたしは弟たちの夕ご飯の用意をして、それからお母さんの病院へ。
 もう面会時間ギリギリ。
 病室の窓の外、ちょうど同じ高さの街路灯がちょっとだけ寂し気に灯っている。
「ただ、腫瘍ができている場所があんまり良くなくて、もしかしたら手術でぜんぶ切れないかもって。 そのときは、手術のあとも放射線治療が必要になるんだって」
 起き上がらなくていいって言ったのに、ベッドの上で半身を起こしたお母さん。
 やっぱり今日も辛そう。
「でも、心配しないでいいから。突然、死んじゃうような病気じゃないからね?」
「うん。手術はいつ? 手術が終わったらすぐ退院できるの?」
「手術は、まだはっきり決まってないけど、六月下旬だって。そして、退院は――」
 お母さんがちょっとだけ手元に視線を落として、小さく息を飲んだ。
 どうしたの?
 お母さん、ぜんぶ話して?
 あたし、もう小さな子供じゃないよ? 
「――退院は、まだ分からないの。稀にだけど、手術が成功しても手足に麻痺が残ったり、言葉がしゃべれなくなったりすることがあって、そういう場合は退院まで時間が掛かってしまうって」
 そうなんだ……。
「それでね? 農園のことなんだけど……」
「農園は心配要らないよ? あたしと晃たちでしっかりやるから!」
「うん……、でもね?」 
 分かってるよ?