「はぁ……、面倒くせぇなぁ」
 翔太はちょっと口を尖らせながら、横でポカンとしている晃の手からグローブとボールを取り上げると、「家に入ってろ」とアゴをしゃくった。
 ちょっとびっくりしている晃。
 晃の背中をポンと押したあと、ゆっくりと小夜ちゃんのほうへ庭を歩いていく翔太。
 居間では、陽介と光輝がテレビを見ながら、あたしが出掛ける前におやつ代わりに作っておいた焼きおにぎりをほうばっている。
 土間からちょっとだけ顔を出して覗くと、庭の向こうの鶏小屋の前に、金網に張り付くようにしてしゃがんでいる小夜ちゃんの後ろ姿が見えた。
 スカートの裾が地面についている。
 その手前、玄関のほうから庭を歩いて来た翔太が、小夜ちゃんの後ろからその背中に声を掛けた。
「おい、鷺田川」
 すごい顔をして振り返る小夜ちゃん。
「なによ。ジャガイモのくせに気安く声掛けるんじゃないわよ」
「俺はデコボコしてねぇ『メークイン』のほうな。なんだ、お前、ニワトリ飼いてぇんだって?」
「え? えっと、……うん」
 すると翔太がグローブとボールを抱えたまま、鶏小屋の前でしゃがんでいる小夜ちゃんの横に並んで立った。
 翔太がゆっくりと小夜ちゃんを見下ろす。
「俺、ニワトリの飼い方知ってるぞ? なんなら教えてやろうか?」
「えっ? ほんとっ?」
「ああ。ただ、俺とキャッチボールがちゃんとできたらな」
「はぁ? なんですって?」
 ぐぬぬと口をゆがめた小夜ちゃんが、ガバッと立ち上がる。
「やったことはないけどっ、アタシにできないことなんてないわっ。やってるところは何度も見たことあるしっ」