お母さんはニコリと笑ったあと、ドアのほうへ目をやる。
「もう、紅茶まだかしら」
 その瞬間!
 ドドンと激しく開け放たれたドア。
 一瞬、ドアの外に、茶器を乗せたトレイを持ったまま、泣きじゃくっているお手伝いさんの姿が見えた。
 そして、その手前に突然飛び出してきた、彼女。
「ひなっ! お待たせっ! さ、行くわよっ?」
 うわ、なにその格好。
 ひらひらが付いた、レースのカーテンみたいなワンピース。
 お料理するにはちょっと邪魔かも。
 お母さんがまた、深いため息。
「はぁ……。やっぱり分からないわ」 

「その角を曲がって……、あ、ここです。その卵の自動販売機のとこから入ってください。木がトンネルみたいになってるんで」
「ああ、ここが入口なのね。覚えておくわ。あら、素敵な古民家ね。じゃ、小夜? あまり日向さんに迷惑を掛けないようにね?」
「うるさいわね。さ、ひな、行くわよ」
 ピカピカの立派な車。
 小夜ちゃんのお母さんが運転する車に揺られて帰宅を果たすと、ちょうど庭で翔太と晃がキャッチボールをしていた。
 翔太、すごい顔。
 晃もびっくりしている。
「うわ、鷺田川じゃねぇか。こここ、これはどういう風の吹き回しだ」
「ああっ、小夜姉ちゃん、いらっしゃい」
 車に駆け寄る晃。
 ドアを開けた小夜ちゃんのエスコート役をやるつもりみたい。
 ほんと、三条くんを連れて来たときとは大違い。
「じゃ、小夜ちゃんをお預かりします」
 あたしと小夜ちゃんを玄関前で降ろすと、お母さんが運転する車は颯爽と雑木林のトンネルへと消えて行った。
 車を降りた瞬間、小夜ちゃんがダダッと駆け出す。