あ……、その節はお世話になりました。
「今日は来てくれてありがとう。実はね? 学校に行かなくなってからずっと、小夜が一番楽しそうに話をするのは、あなたと、あなたの弟さんたちのことだったのよ?」
 へ? あたしのこと?
「あなたが作った夕ご飯が美味しかったとか、弟が可愛かったとか……。自分も料理を覚えたい、イチゴや野菜を育てたい、美味しいジャムを作りたい……、そして、その続きが、あのニワトリ小屋」
 うわぁ、非常に申し訳ない……。
「単純よね。そして、ニワトリの次はイチゴ作り……。鶏小屋の横に温室を作って、そこでジャムにするイチゴを作るんだって」
 眉をハの字にした、小夜ちゃんのお母さん。
「いつも小夜はいろいろと理由をつけて、できないんじゃない、たまたまできなかっただけだって言い張るんだけど、なぜか今度は言わないのよね。自分もできるようになりたいって、そればっかり言うのよ」
 お母さんがすっと目を上げて、まっすぐにあたしを見た。
「たぶん、あなたに会ったから。きっと、あなたがすごいんだと思う」
「えっと……、あたしはそんな」
 そう言って肩をすくめて首を振ると、お母さんは今までで一番の満面の笑みになった。
「だって、聖弥くんがプロポーズした女の子だもんね」
 い?
 どどど、どうしてそれを。
 思わず、ハッとして下を向く。
 どぎまぎとして言葉を捜していると、お母さんはクスクスと笑いながら、そっとあたしの顔を覗き見上げた。
「ふふふ。小夜が、あなたになら聖弥くんを任せられるって、そう言ってたわ。日向さん? これからも、小夜のこと、よろしくお願いします」
「は、はい」
 思わず背筋を伸ばした。