あっ、だから耳鼻科で「様子を見ましょう」って言われて怒ってたんだ。
「聖弥くん、UTA☆キッズに出る前は、教会の聖歌隊に入っててね? あそこの、緑の屋根の教会、知ってるかしら」
「え? あ、知ってます。あたしも保育園のとき、あそこの聖歌隊の歌を聴きに行ったことがあります」
「そう。小夜も幼稚園のとき聴きに行ったんだけど、そのとき、聖弥くんがソロをやったの。小夜ったらその歌に感動したみたいでね」
 三条くんがやってた聖歌隊って、あの教会の聖歌隊だったんだ。
「幼稚園でちょっといじめられて不登園になりかけてたんだけど、聖弥くんの歌に勇気をもらったみたいで、それからはとっても元気に登園するようになって」
 小夜ちゃん、いじめられてたの?
 あたしが聴きに行ったのは、たった一度だけ。
 保育園の『クリスマスお遊戯会』のちょっと前で、本物の合唱を聴きに行こうって感じで、教会の催しに年長さんみんなで参加させてもらった。
『日向ちゃんは、花束を渡す役ね。先生が「はい」って言ったらまっすぐ歩いて行って、一番前の真ん中に居る男の子に、この花束を渡すのよ? いい?』
 真っ白な服を着た聖歌隊の男の子たちが、マリア様の像の横に並んで、とっても素敵な歌声を聴かせてくれた。
 もしかしたら、あの中に三条くんも居たのかも。
「だから、もう一度、両耳で彼の歌を聴きたいっていうのが、小夜の夢なのね」
 言葉が出ない。
 小夜ちゃん、それで三条くんの応援をしてたんだね。
「でも、やっぱり小夜は難しいわ。喜怒哀楽がハッキリと読み取れたり、正義感が強いところはすごくいいんだけど。お金を拾ったりしたらすぐ交番へ駆け込むし」