ガタガタとソファーを揺らす小夜ちゃん。
 すごいトンデモ理論。
 でも、ものすごく小夜ちゃんらしい。
 もしかして、二週間も休んでたのって、このため?
「えーっと、その、小夜ちゃん? それなら、まず先に美味しい卵焼きを作れるように頑張ったらどうかな? あたし、卵焼きの作り方、教えてあげる」
「えっ? ホントっ?」
 小夜ちゃんの動きが止まった。
 瞳をキラキラさせて、ポカンとあたしのほうを見ている。
「うん。でも、あたしのは我流だから、小夜ちゃんが思う卵焼きと違うかもだけど。だから、ね? お庭でニワトリを飼うのは――」
「ひなっ! 女に二《に》言《ごん》はないわねっ! 今から行くわよっ!」
 うわっ!
 突然、立ち上がった小夜ちゃん。
 眉をカモメみたいに吊り上げて、これ以上ないくらいの笑顔で思いきりあたしの腕を引っ張る。
「え? 行くってどこへ?」
「宝満農園に決まってるじゃないっ! アタシっ、準備してくるっ!」
 バチッとあたしの腕を放って、小夜ちゃんがバタバタと応接室を出て行く。
 いや、卵焼きの作り方なんて、ここでも教えられると思うけど。
 勢いよく開け放たれた応接室のドアの向こうに、ポカンと口を開けているお手伝いさんが見えた。
 お手伝いさんの手には、とっても上品なポットとカップ。
 目を戻すと、小夜ちゃんのお母さんが頭を抱えていた。
「まったく意味が分からないわ。家どころか部屋からも出たがらなかったのに、日向さんに会ったとたん、自分から外へ行くって言い出すなんて。ごめんね? いつも小夜があんなで」
「いいえ。あたしは、その……」
「小夜ね、実は……、ちょっと理解と支援が必要な子なの」