パッと顔を上げて、満面の笑みをあたしに向けた小夜ちゃん。
 見ると、リビングの絨毯の上で小夜ちゃんがお母さんらしき女性に馬乗りになって、その長い髪を思いきり引っ張っている。
「ちょっと、小夜ちゃんっ、ダメっ!」
「あっ、なにすんのよっ!」
 あたしは思わず小夜ちゃんに飛び掛かった。
 脱ぎ放った靴が芝の上に飛んで行く。
「小夜ちゃんっ、どうしたのっ? 落ち着いてっ!」
「なによっ! 例えひなでも許さないんだからっ! こいつがアタシの計画を台無しにしたのよっ!」
 だから、『ひな』ってなに?
 ハッと見ると、押さえつけられているお母さんは、完全に涙目。
「もうっ! あたしが話を聞くからっ、ちょっと離れるのっ!」
 力いっぱい小夜ちゃんの腕を引っ張って、手前に引き倒す。
 うわ、病院のときと同じ。
 あたしに引っ張られた小夜ちゃんが、バランスを崩して絨毯の上に倒れた。
 すぐにお母さんを脱出させて、その背中を押す。
 お母さんが立ち上がった。
「小夜っ! もういい加減にしてっ」
 スカートをはたきながら、あたしたちを見下ろす小夜ちゃんのお母さん。
 あたしは一緒に寝っ転がったまま、小夜ちゃんを羽交い絞めにして笑顔を作った。
「どっ、どうも初めまして。小夜ちゃんの同級生のっ、こら、じっとしてなさいっ、宝満日向っ、ですっ」
「ええっ? あなたが、日向さんっ?」
「はいっ! えっ? あたしのこと知ってるんですか?」
「もちろん知ってるわ。小夜のこの世でたったひとりの親友なんでしょ?」
「え? ええっ? ええええーーーーっ?」