どうするのかと見ていると、光輝はタッタッとなんの迷いもなく小夜ちゃんのところへ駆けてきて、ニコニコしながらストンとその隣へ座った。
 ギョッとする小夜ちゃん。
 じっと彼女を見上げる光輝。
『な……、なんなの? アタシに絵本を読めとでも言うの?』
 唇の端をぴくぴくさせて小夜ちゃんがそう言うと、瞳をキラキラさせた光輝が絵本を両手で差し出しながらうんうんと頷いた。
 しばらくの沈黙。
 小夜ちゃんは、なにやらじっと考えている。
 光輝はただただ、ニコニコして小夜ちゃんを見上げている。
 しばらくして、小夜ちゃんはチッと舌打ちすると、頬を真っ赤にしてバッと光輝の手から絵本を取り上げた。
 いまにも光輝を弾き飛ばしそうな勢い。
 思わず、居間へ踏み出しそうになった。
 しかし……、なんと意外なことに、光輝から絵本を取り上げた小夜ちゃんは、じとりと三条くんへ目を向けたあと、すーっと彼に背中を向けて座り直し、それから光輝に顔を寄せて小声で絵本を朗読し始めた。
 思わず笑ってしまった。
 小さな声で、光輝に耳うちするように絵本を読んであげている小夜ちゃん。
 それから、あたしのお料理ができ上がるまで、とってもとってもゆったりした時間が居間を包んでいた。
 夕ご飯ができ上がったのは、小夜ちゃんの朗読が六冊目になったとき。
『さぁ、みんな手伝ってー』
 あたしが台所から居間へ向かってそう声を掛けると、三条くんが晃と陽介の背中をポンと押した。
 光輝もさっと立ち上がる。
 小夜ちゃんは、なにが起こったのかと目を丸くしている。 
 そして、あっという間に、食卓はあたしのお料理でいっぱい。