「え? うん。ちょっとやれそうにないから」
「大変ねぇ、農家は」
 彼女は、小学校のときにあたしたちのクラスへ転校してきた女の子。
 長い髪がすごくキレイでとっても美人なんだけど、身長はあたしとあんまり変わらない。
 歌が上手で、小学校も中学校もあたしと同じく合唱部に入ってて。
 いつごろからか、なぜか彼女はあたしを『ジャム子』って呼ぶようになった。
 まぁ、中学ではずっと違うクラスでそんなに深い付き合いでもなかったし、あたしは中学三年のコンクール前に合唱部を辞めちゃったから、それからは彼女とほとんど顔を合わせてなかったんだけど……。
 あ、言っとくけど、小夜ちゃんが苦手で合唱部を辞めたんじゃないよ?
 いろいろあったの。いろいろ。
 まぁ、小夜ちゃんはすごくわがままだし、ズケズケと人を傷つけるようなことを平気で言うし、遠慮もおしとやかさやデリカシーもまったくないけど……、どうもこれは天然もので悪気はないみたい。
 それなりに付き合ってみると、意外にも感動屋で涙もろかったりするところも見えてきて、そんなに悪い女の子じゃないってことが分かる。
 でもやっぱり、あたしはちょっと苦手だけどね。
 ふと見ると、翔太の眉がピクピクしていた。
 真後ろでキンキン鳴ってるアニメ声がとうとうガマンできなくなったらしく、翔太がはぁーっと大きなため息をついて、グイッと後ろを振り返る。
(さぎ)()(がわ)、いい加減、俺のことジャガイモって言うのはやめろ。おれはそんなにデコボコしてねぇ」
「えー? アタシにはあんたはジャガイモにしか見えないのよ。だからそう呼ぶしかないじゃない」