「お母さんが実現したいと願っている『お父さんの夢』も、これはお父さんを思うからこそであって、お母さんが自身へのなんらかの対価を欲しているものじゃない」
 そうだ。
 お父さんの夢は、家族のための夢だった。
 そして、その果たせなかった夢を、今度はお母さんがお父さんのために実現しようと頑張っている。
 あたしは、そのお母さんが少しでも楽ができるようにって、そう思っているだけ。
「結局、思えば俺の夢は、俺の意地や功名心のためだけの夢だ。それも、己の実力を示して他者を見返してやりたいという、対価を求める夢だ。ただただ対価を求める夢は、純粋な夢じゃない。それは……、野心だ」
 そんな難しいこと、あたし、考えたこともない。
 あたしはただ、あたしのせいで壊れてしまった誰かの夢を、できるだけ元どおりにできないかってもがいているだけ。 
 あたしが、お父さんの夢も、お母さんの夢も壊してしまった。
 あたしは、あたしが嫌い。
 あたしなんて、もともとここに居る価値もない。
 だから、あたしはここに居させてもらうために、その罪を償って許してもらうために、それだけのために頑張っている。
 だから、あたしが一番、自分のことしか考えていない。
 あたしは、三条くんが思っているような女の子じゃない。
「俺も、誰かの幸せを願う夢を持ちたい。誰かの幸せに繋がっている夢が、俺の夢だと胸を張りたい。それを、お前たちを見て思った」
 そうなんだ。
 だから、ずっとお手伝いに来てくれてたんだ。
「このイチゴは、お前そのものだ。そして俺は……、俺は、この名もないイチゴが好きだ」
 えっ?
 いやいや、勘違いしちゃダメ。