「うん。旨い。お母さんが、このイチゴは『日向そのもの』だって言ってたよ。今日、お母さんの話を聞いて、ようやく俺が抱えていた違和感の謎が解けた」
 謎?
 手を伸ばしたまま、「ハァ?」という顔をした小夜ちゃん。
 三条くんは、ちょっと笑っている。
「お母さんの夢、知ってるか? 晃は、『お姉ちゃんが農園を継いでくれるような素敵な彼氏を連れて来てくれること』って言ってたが」
 うわ、それは、一昨年の初詣のとき、お母さんが冗談で言ったお願い事よっ?
 冗談なのっ、冗談。
「ま、それは冗談だろうけどな。お母さんの夢は、合唱のステージで一生懸命歌う日向を、客席から応援することだってさ」
「え? お母さんが、そんなことを?」
「うん。もちろん、お父さんの夢を実現させたいってのも、夢のひとつだって言ってた。でもそれは、自分だけの夢で、それを日向たちには押しつけたくないって」
 お母さん……。
「本当は、日向に農園の手伝いをさせたくない、ありのまま、高校生らしく友だちと笑い合って、思いきり歌って、たくさん素敵な思い出を作って欲しいって……、そう言ってた」
 だめだ。
 ちょっと目の前がゆらゆらしてる。
「日向も、弟たちも、お母さんも……、宝満家のみんなは、自分の夢が誰かの幸せに繋がっている。誰かの幸せを願うことが、そのまま自分の夢になっている……。俺んちは逆だ」
 それは、三条くんのお母さんのことを言ってるの?
 まだ、一度もちゃんと話してくれたことがないよね。
 三条くんのお母さんって、どんな人なの?