コウセイのベットは爽やかな匂いと、煙草の匂いが混じっていた。不思議とイヤな気分にはならなかった。全く甘い匂いがしない…。


どちらかと言うと、ユタカと真逆だった。ユタカはいつも甘い女性のような香りがする。それは会う度に違う…。他の〝お姫様〟の移り香…。


ウトウトとしながら、煙草を吸っているコウセイの横顔を見ていた。その顔はやっぱり2個上には見えない。

私を抱かず、さっきまでキスをしてきた男。


「…見えないね」

「なにが」


横顔が、少し正面になる。


「ほんとに21歳?」

「誕生日まだだから、20歳」

「え、うっそ、1歳差?」

「お前19?」

「うん、ついこないだ…」

「ふうん…」

「ってか20歳なのに…結構私をガキ扱いしてたよね…」


ベットで寝転んでいる私から顔を逸らしたコウセイは、煙草の火を消した。そしてそのままどこかへ行こうとするのか、ジャケットを着た。もう夜中の12時を過ぎている。


「どこかいくの?」

「コンビニ、煙草切れたから」

「ヘビースモーカーだね、肺が真っ黒になっても知らない」

「もう遅いわ真っ黒」



玄関に向かうコウセイを見送った。
コウセイが戻ってきのは、それから多分、10分も経ってない。
「悪いな」と袋に入った私にそれを差し出してきた。「ケーキ、無かったわ」と。


袋の中を見て、私は泣いた。

そこにはプリンなどスイーツ系のおやつや、チョコレート系のお菓子が、袋から溢れそうなほど入っていた。


誕生日プレゼントとか、ましてや誰かに何かを贈られることなんて今まで無かった…。ベットの上に座り、ポロポロと涙を流せば、隣に腰かけてきたコウセイが怪我をしてない側の頭を撫でる。


「…ケーキは来年な」

「ん…」

「なあ」

「…っ、…」

「やっぱり、結構優しい方だと思うんだけど」

「……、」

「…俺じゃダメなのかよ…」

「…っ…」

「もっと優しくするから」


声が出なかった…。泣きながらコウセイを見つめた。──…私はただ、居場所が欲しいだけ…。



できない…。
私の事を好きだと言ってくれる男…。
私はまだ、コウセイの事を好きじゃない…。
心の中にユタカがいる…。

コウセイはこんなにも優しい男なのに、軽い気持ちでそばにいることなんてできない…。

ましてや利用するなんて…。


────…お金を払ってるからこそ、私はユタカに居場所に求められるというのに…。私のワガママで…コウセイを縛るなんてできない。


「ごめんなさい……」と、謝る私は、「出ていくね、手当てしてくれてありがとう…」と、コウセイを見つめた。


コウセイが私を抱きしめる…。
コウセイからは、煙草の香りがした。


その香りに包まれながら、確かにこの時、私はユタカとの関係を終わりたいと思った…。

それでもユタカに依存している私はやめる事が出来なかった……。