──────頭に衝撃が走った。それは久しぶりに家に帰った時、運悪く父親と遭遇してしまったから。アルコール依存性で、昔から娘に暴力を振るう父親と。

壁に当たった打ちどころが悪かったらしい。頭から血が流れるのが分かった。
凄く痛い…。
ジワジワと、髪が赤で濡れていく…。
殺される…。今まで何度そう思ったか分からない。
必死に家から逃げた。
逃げて、逃げて。
無意識に足を進んでしまう場所は、ぬくもりをくれるユタカのところ。



店の近くまで来たところで、私はすれ違う人達にジロジロ見られているのに気づき。さっきから痛む頭皮に手を当てた。
少し乾いているものの、指先には血がついていた。どうやらまだ、流れ続けているようで。

こんな状態でユタカの元へ行けるはずもなく。私はコンビニの前の、端の方にいた。

そのまま蹲っていると、「なにしてんのぉ」と若い男の人が話しかけてきたりするけど、私の頭から流れている血を見て「やべぇクスリでもやってんじゃね」と、気味悪そうに傍から離れていく。




それでも、「知ってるか?」と、膝をおり、血を見ても逃げ出さず私に話しかけてくる男がいて。


「好きな奴なら、無意識に探して見つけることが出来るらしい」と。


人混みの中から、私を見つけたコウセイは、「どうした、誰かにやられたのか」と、少し怖い顔をしながら私を見つめていた。

暗い夜でも、コンビニから出るあかりのおかげで、コウセイの顔が良く見えた。今日のコウセイは、真っ黒のスーツじゃなかった。


「父親…」


私の言葉に、もっと顔を顰める。


「いつもの事だから…」

「…頭か?病院は?」

「行かないよ、保険証?っていうの持ってないもん…作ったことない…」

「入ってなくても診てくれる」

「勿体ないし、お金…」


ほんと、ユタカに10万を軽々使う私が、何言ってるのか。


「なんで自分を大事にしない…?」


そう言ったコウセイは、手のひらで私の頬を包んだ。血がつくのに。


「もっと酷い時あったもん…」

「マユ」

「触んない方がいいよ、私、結構汚いし…」

「……」

「コウセイさんが今さわってるそこも、昨日たくさんおじさんに舐められたよ?おかげでお金くれたけど…」

「…お前、また体売ってんのか」

「うん、だから触んない方がいい、結構何人か相手したし、病気持ってるかも……わたし、」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……苦しいよ……、コウセイさん……」

「……」

「…苦しい……」



コウセイの腕が、泣いてる私を包み込む。

コウセイに抱きしめられてる。



「……たすけて……」