私が働いているお店では、ホストにハマった友達を持つ女の子がいた。その子が言うには、「私の友達、ホストの誕生日の時、一晩で500万使ってたよ」のようで。
それでも、500万以上お酒を注文した人も中にはいたらしく。
女の子は「あいつらマジやばいから。たまにこういうとこにも営業くるし気をつけた方がいいよ」と私にアドバイスをくれた。
こういうところにも営業という意味に分かった私はただうんと頷いた。
お客さんの中で、ホストっぽい人が来たことがある、持ち前のトーク力で「お店においでよ」ってそういう事を言ったりきたりする。
それでもユタカ一筋な私は、「行ったらハマりそうで怖いな〜」って話を逸らしていた。もうホストであるユタカにハマっているというのに。
店には年配で、どこからどう見ても気持ち悪いお客さんだって来る。それでもユタカの笑顔を見たいために私はお金を稼いでいた。
稼いで稼いで、ユタカに会いにいく。
だけどそんなお金はすぐに消えていく…。
お金が消えればユタカが笑ってくれる…。
そんな日が何日も続いた。
「──…お前、最近笑わなくなったな」
煙が匂いが鼻に通っていく。
煙の先の方に目を向ければ、今日も休憩中らしい人がいて。コウセイの言葉に、私は眉を動かさなかった。
笑わなくなった。
そうだろうか。
私はいつも笑ってる。
「そうかな、店では笑顔がいいねってよく言われてるよ?」
そう言ってる私の顔は、無表情。
「……ここでは笑ってないだろ」
「私はユタカが笑ってくれればいい…」
「お前が笑ってなくてどうすんだよ」
「……」
「……ここに来るやつほとんどがそう…。大金を使えば使うほど笑わなくなる」
「……」
「お前は…、このままでいいのか?」
「…」
「…いずれ笑わなくなるぞ」
なんでそんな事を言うんだろうと思った。
だってこの人は、私に働き場所を紹介してくれた人なのに…。…風俗という道を。
「なんだか、コウセイさん、店を辞めてユタカにも会いに来るなって言ってるように聞こえるよ?」
「そう言ってる」
そう言ってる、って。
たから、どうして。
「だったらなんでお店を紹介したの?」
「どうでもいい女だったら、そのへんの安いソープでも紹介してる」
「なにそれ、私はどうでもよくない女ってこと?」
「…どうだろうな」
どうだろうな?
意味、分かんないし。
どっちなの。
ホストで働いているのに、店には来るなって?
オナクラを紹介したのに、店を辞めろって?
「──…じゃあ、放っておいてよ…」
コウセイから目を逸らした。
まだ、煙草の香りが包んでる。
包んで、包んだその香りが地面へと落ちた。
その刹那、──とある力が私を引き寄せる。
唇に柔らかい感覚がした。
自ら体を売っていた時も、風俗でも、私はキスを絶対にしなかった。
ファーストキスは、出来ることなら大好きなユタカだって決めていた。
キスはレモンの味って言うのは、嘘だと思った。柔らかい感覚と煙草の苦い味。
瞬きさえ出来なかった。
柔らかく、離れたそれに、彼と目が合う。
「……な、にするの、」と言えば、泣きそうになった。
至近距離で、コウセイの顔は近いまま。
「やっぱりお前、俺に会いに来れば?」
「なに、言って…」
「ユタカのこと忘れて」
「…っ、」
「マユ」
どくん、と、心臓がなる。
どうして。
どうして私の本名を知ってるの?
私は誰も言ってない。
「……名前、どうして…」
また近づいてくるコウセイに、戸惑う。
「お前の年確、誰がしたと思ってんだよ」
年確?
年齢確認…。
ああ、そうか、
店に入る前に、私はマイナンバーカードをコウセイに見せた…。
そう思っていると、私はまたコウセイに唇を塞がれていた。
やっぱりそれは、苦い味がした。
それでも、500万以上お酒を注文した人も中にはいたらしく。
女の子は「あいつらマジやばいから。たまにこういうとこにも営業くるし気をつけた方がいいよ」と私にアドバイスをくれた。
こういうところにも営業という意味に分かった私はただうんと頷いた。
お客さんの中で、ホストっぽい人が来たことがある、持ち前のトーク力で「お店においでよ」ってそういう事を言ったりきたりする。
それでもユタカ一筋な私は、「行ったらハマりそうで怖いな〜」って話を逸らしていた。もうホストであるユタカにハマっているというのに。
店には年配で、どこからどう見ても気持ち悪いお客さんだって来る。それでもユタカの笑顔を見たいために私はお金を稼いでいた。
稼いで稼いで、ユタカに会いにいく。
だけどそんなお金はすぐに消えていく…。
お金が消えればユタカが笑ってくれる…。
そんな日が何日も続いた。
「──…お前、最近笑わなくなったな」
煙が匂いが鼻に通っていく。
煙の先の方に目を向ければ、今日も休憩中らしい人がいて。コウセイの言葉に、私は眉を動かさなかった。
笑わなくなった。
そうだろうか。
私はいつも笑ってる。
「そうかな、店では笑顔がいいねってよく言われてるよ?」
そう言ってる私の顔は、無表情。
「……ここでは笑ってないだろ」
「私はユタカが笑ってくれればいい…」
「お前が笑ってなくてどうすんだよ」
「……」
「……ここに来るやつほとんどがそう…。大金を使えば使うほど笑わなくなる」
「……」
「お前は…、このままでいいのか?」
「…」
「…いずれ笑わなくなるぞ」
なんでそんな事を言うんだろうと思った。
だってこの人は、私に働き場所を紹介してくれた人なのに…。…風俗という道を。
「なんだか、コウセイさん、店を辞めてユタカにも会いに来るなって言ってるように聞こえるよ?」
「そう言ってる」
そう言ってる、って。
たから、どうして。
「だったらなんでお店を紹介したの?」
「どうでもいい女だったら、そのへんの安いソープでも紹介してる」
「なにそれ、私はどうでもよくない女ってこと?」
「…どうだろうな」
どうだろうな?
意味、分かんないし。
どっちなの。
ホストで働いているのに、店には来るなって?
オナクラを紹介したのに、店を辞めろって?
「──…じゃあ、放っておいてよ…」
コウセイから目を逸らした。
まだ、煙草の香りが包んでる。
包んで、包んだその香りが地面へと落ちた。
その刹那、──とある力が私を引き寄せる。
唇に柔らかい感覚がした。
自ら体を売っていた時も、風俗でも、私はキスを絶対にしなかった。
ファーストキスは、出来ることなら大好きなユタカだって決めていた。
キスはレモンの味って言うのは、嘘だと思った。柔らかい感覚と煙草の苦い味。
瞬きさえ出来なかった。
柔らかく、離れたそれに、彼と目が合う。
「……な、にするの、」と言えば、泣きそうになった。
至近距離で、コウセイの顔は近いまま。
「やっぱりお前、俺に会いに来れば?」
「なに、言って…」
「ユタカのこと忘れて」
「…っ、」
「マユ」
どくん、と、心臓がなる。
どうして。
どうして私の本名を知ってるの?
私は誰も言ってない。
「……名前、どうして…」
また近づいてくるコウセイに、戸惑う。
「お前の年確、誰がしたと思ってんだよ」
年確?
年齢確認…。
ああ、そうか、
店に入る前に、私はマイナンバーカードをコウセイに見せた…。
そう思っていると、私はまたコウセイに唇を塞がれていた。
やっぱりそれは、苦い味がした。