「まーた来てんのな」

意地悪くそう言ってくるのは、もうすぐ私が向かう内勤…というものらしかった。夜のイルミネーションに似合う黒いスーツを着ているその人は、あの人から「コウセイ」って呼ばれていた。

店の外にいるコウセイは、キャッチか何かをしているようで。だけども煙草を吸いながらだから、どう見てもサボっているようにも見える。
私を見て呆れたように。バカだなぁ…と呟く彼の耳にはシルバーの輪っかのピアスが付けられていた。


「来ちゃわるいの?」


不貞腐れながら言えば、ふ、と鼻で笑ったその人が「いや?」と煙草を地面へと落としやけに綺麗な黒の革靴で踏み、擦り付けるように火を消した。


「お酒も飲めねぇのに。18でろくに楽しめねぇ女が、こんなところ来んじゃねぇよってのは思うな」

「…お店の人がそんなこと言ってもいいの?」

「まあな」

「っていうか、成人でも飲まない人もいるよ」

「まあ、あんまりのめり込むなよ。小遣い程度にしとけ」


コウセイはそう言って、さっきとはうってかわり「ようこそお姫様」と笑う。

御伽噺に繋がる店へと向かう私は、店につき、案内された場所へと向かう。
やけに高価なソファに座り待っていると、彼が現れて。


「マコ、来てくれたの?連絡くれれば良かったのに」


優しい笑顔を向けてくれる彼に、今日も酔いしれる。王子様のように、穏やかで、笑顔が犬のように可愛い彼は、ここでナンバー入りしている人。


「ユタカのこと、ビックリさせたくて」


笑う彼の名前は、ユタカ。私の担当。


「もう、悪い子だな」

「ダメだった?」

「ううん、嬉しい。おいで」


手招きをする彼に、体を預ける。甘い香水の匂いがする。この匂いは、いつも違う匂いがする。私が来る前に、きっと他の女の子の相手をしたんだろう…。
けど、そんなことはどうだっていい。
今はこうして私のそばに居てくれるんだから。


「また、なんかあった?」

「……ユタカ」

「…マコが来る時、いつも弱ってる時だからな」


まるで恋人のように、頭を撫でてくるユタカ。


「うん、またお母さんが…」

「そう」

「……少しの間、こうしてて」

「うん、大丈夫だよ、俺がいる」


ここは、ホストクラブ。
夜のお店。
お金を払って、お姫様になれる場所。


アルバイトで稼いだお金で、彼に会いに来る。
ユタカに会いに来ればすぐにお金は無くなってしまうけど。心を落ち着ける場所があれば…。
私は生きていける。


それでも御伽噺には終わりがあって、ワンセットのメニューである60分がたった頃、内勤のコウセイに「お時間ですがどうされますか」と聞かれる。


今日、あまりお金が無い私は延長することが出来ない。


離れ離れになる王子様であるユタカが、出口まで送ってくれる。「また、いつでも胸貸すから」と、柔らかく微笑んでくれるユタカに、私は恋をしていた。