「一緒に寝ても、何も起きないことは分かる」
「そうだね。何も起きないね。私たちは。じゃあ一緒に眠ってもいいんじゃないの」
クスクス笑うと、お皿に残った生クリームを丁寧にフォークで集め出した。
「……未成年だから駄目ってことじゃないよな」
「うん」
「俺が二十歳でも、駄目だったろ」
「うん」
「……ちーちゃん」
テーブルにフォークを落とすと、カランカランと音を立てた。
「結婚しないでよ」
「……うん」
「結婚、だめだよ」
「うん」
「結婚、不幸にしかならねえって」
「……どうだろ」
携帯の画面を見た。
私の旦那さまになる人が微笑んでいた。
「うちの親が喋ったの?」
省吾は首を振った。
「誰が省吾に言ったの?」
テーブルの上のフォークをツンツン触って、面倒くさそうに聞くと、省吾は目を閉じて苦し気に言った。
「花屋のおじちゃんが……教えてくれた」
「そっか」
そっか。
そうなんだ。
腑に落ちなかった色々なものが結ばれていく。そういうことか。
「全部知っちゃったんだね」
「結婚、やめようよ。しちゃだめだよ。やめてよ」
省吾の目に大粒の涙が浮かんだ。
「どうしても結婚するって言うなら、俺は犯罪者になる。ここにちーちゃんを閉じ込める」
「誘拐犯がそういうなら、怖いなあ。どうしようかなあ」
「……結婚なんて、俺は絶対に嫌だ。するなら、別の人か、俺にしてよ!」
とうとう溢れてきた涙が優しくて、温かくて、綺麗で、気づけば私も省吾の顔が滲んでみえた。
携帯の画面に映る彼が、よく見えない。
不動産会社に勤めていると言っていた。花屋のおじちゃんに、店を閉じて、駐車場にしようって何度も帰省しては丸め込もうとしている。
彼はとても悪い人だった。
確かに駅に近いおじいちゃんの花屋は、駐車場にしたら儲かるのかもしれない。
そんな彼とおじいちゃんの間にしゃしゃり出て、根性が腐っている彼と散々喧嘩して、……私の考えを認めた時には彼は私を好きになってくれていたらしい。
同情だったのだろうか。
監視だったのだろうか。
彼の気持ちを断ったら、せっかく花屋を守れたのに危うくなるかもしれない。
打算だったのかもしれない。
最初は純粋な気持ちじゃなかった。
「そうだね。何も起きないね。私たちは。じゃあ一緒に眠ってもいいんじゃないの」
クスクス笑うと、お皿に残った生クリームを丁寧にフォークで集め出した。
「……未成年だから駄目ってことじゃないよな」
「うん」
「俺が二十歳でも、駄目だったろ」
「うん」
「……ちーちゃん」
テーブルにフォークを落とすと、カランカランと音を立てた。
「結婚しないでよ」
「……うん」
「結婚、だめだよ」
「うん」
「結婚、不幸にしかならねえって」
「……どうだろ」
携帯の画面を見た。
私の旦那さまになる人が微笑んでいた。
「うちの親が喋ったの?」
省吾は首を振った。
「誰が省吾に言ったの?」
テーブルの上のフォークをツンツン触って、面倒くさそうに聞くと、省吾は目を閉じて苦し気に言った。
「花屋のおじちゃんが……教えてくれた」
「そっか」
そっか。
そうなんだ。
腑に落ちなかった色々なものが結ばれていく。そういうことか。
「全部知っちゃったんだね」
「結婚、やめようよ。しちゃだめだよ。やめてよ」
省吾の目に大粒の涙が浮かんだ。
「どうしても結婚するって言うなら、俺は犯罪者になる。ここにちーちゃんを閉じ込める」
「誘拐犯がそういうなら、怖いなあ。どうしようかなあ」
「……結婚なんて、俺は絶対に嫌だ。するなら、別の人か、俺にしてよ!」
とうとう溢れてきた涙が優しくて、温かくて、綺麗で、気づけば私も省吾の顔が滲んでみえた。
携帯の画面に映る彼が、よく見えない。
不動産会社に勤めていると言っていた。花屋のおじちゃんに、店を閉じて、駐車場にしようって何度も帰省しては丸め込もうとしている。
彼はとても悪い人だった。
確かに駅に近いおじいちゃんの花屋は、駐車場にしたら儲かるのかもしれない。
そんな彼とおじいちゃんの間にしゃしゃり出て、根性が腐っている彼と散々喧嘩して、……私の考えを認めた時には彼は私を好きになってくれていたらしい。
同情だったのだろうか。
監視だったのだろうか。
彼の気持ちを断ったら、せっかく花屋を守れたのに危うくなるかもしれない。
打算だったのかもしれない。
最初は純粋な気持ちじゃなかった。