何処からか奏でる笛の音と共に、女は最期の舞を踊る。凛としながらも、憂いに沈み、儚げで美しい舞を。
 男は分かっていた。的を撃ち抜けば、女との関係は終わってしまうのだと。自分が女の為にした事は、女を傷つけ、追い詰め悲しませていた事だったのだと。
 男は主を見つめた。主は男を見据えた。 
「お前が鍛えた弓の腕を、今こそ見せてもらおうか」
「しかし……」
 憂い顔の愛しい女を、男は裏切れる訳にはいなかった。けれど、自分が仕える主の命令は絶対だ。
「誰かがやるより、お前がやるしかないだろう。撃ち抜いたすぐ後に、救出すればいい事だ」
 男の主は、目の前の挑発にしか目に入ってなかったのだろう。天下を賭けた大事な戦だから仕方がないが、男と女の関係は、翻弄され、打ち砕かれる程に些細な事にしか見えなかった。
 男は、自分の名前を高々に名乗り、馬の背から、女が乗る小舟の扇の的に狙いを定めた。
全てが、ゆっくりと映し出されていく。男が矢を向けた時に、女は妖しく笑った。
その微笑みは、男が今までに見たことがない程に極上で、妖艶な色気を漂わせていた。
息を飲んだ男は、思わず弓を放ってしまった。
弓を弾く、音。
風を斬る、矢。
――扇が海へ落ちていく、場景。
全てが、夢の様に、スローモーションだった。
音もなく海に浮かぶ扇が、水面に波紋を描く。
 時が止まったのは、数秒。
けれど、男には永遠に感じられた。女が、海に飛び込んでゆく。
美しく艶やかな髪が空に舞い、身に纏った着物が風に吹かれ、女は涙を流しながら沈んでいく。
「姫―――!」
 男の主は、目の前の挑発にしか目に入ってなかったのだろう。
天下を賭けた大事な戦だから仕方がないが、男と女の関係は、翻弄され、打ち砕かれる程に些細な事にしか見えなかった。男は、自分の名前を高々に名乗り、馬の背から、女が乗る小舟の扇の的に狙いを定めた。
男は叫びながら、馬に乗り海の中に入っていく。
男の主が、奴に続けと叫んでいたが、男の耳には聞こえていなかった。
男は、ただ、ただ、我武者羅に女を助ける為に走った。男の後を追い、剣を振り上げる他の人達など視界に入らない程に。濁った海で、男は懸命に女を探した。
 そして、海に沈んでいく女の手を男は捕らえた。女は、やはり妖しく微笑み、涙は海に溶けていた。