キミはやっと幸せになれたのならば、それでいい。僕を忘れて、僕じゃない誰かと幸せになれる運命になれたのなら、僕はそれでいいはずだ。
 僕は、先生が幸せなら、それを傍らで見ていられるならば、
――桜を手放す覚悟は出来たよ。
「あの人に貴方はとてもよく似ているわね。私の気持ちを真っ先に汲み取ってくれる、優しいところが」
 先生の言った意味はよく分からない。けれど、分かるような気もした。
 それでいて、僕と先生は最後まではっきりと記憶を思い出すことは無かった。
 輪廻する狂った時間を、継承しないですんだのは、雨も降らず桜の香りが僕たちを包んでくれたからかもしれないね。

桜、舞い散る。
先生と一緒に生きた桜が舞う。
散る、溢れる。
さよならを言うために。
 けれど、桜は結局、最期に咲かせてから切る事になった。校長先生が切るのを早めたら、反対の声が沢山寄せられたらしい。そして、もしかしたら切られずに違う場所に移動を、という話も出ているんだって。それを聞いた僕はにこにこ笑顔だ。単純だと言われたけれど、気にしない。
先生も嬉しそうに木の下で笑ってる。
 ――今も、幸せなのよ。
先生がいつまでも、笑ってくれる為に。早く速く、春になれ。最期の花を色鮮やかに咲き乱れ、散っていって。石の階段を登れば、桜は咲き乱れる。
桜は舞って舞って、舞って舞い散って、坂を下り風に吹かれて吹かれて、海まで舞い散る。
街全体にこの桜が舞い散る。それを、桜の木の横で幸せそうに先生が眺める。
風に吹かれて、舞って、散って、無くなっても、ずっとずっと、笑顔でいてね。