けれど、沢山沢山、考えても結果は変わらない。別れて、別々の道を歩みだすしか、ね。互いに縋りつく若さもないし、互いに相手だけを慈しむ思いやりもなかった。
 だから、だろう。扉は沢山あるのに、扉は沢山あったのに、結果が変わらないのは。
それに、抗えないのは。


――捨てました。詰まらない、言葉を捨てました。貴方は拾っていますが、貴方に響かなかった音の羅列に何の未練を感じるのですか?
 私は未練を感じません。煩わしいだけです。貴方に響かない言葉は、私の心の中で箱に捨てました。その箱が満杯になったら、私は振ります。静かに、そして激しく。箱に閉じこめられた言葉は、音として貴方の耳に届くでしょう。
言葉が響かないならば、私は言葉を音に変えました。言葉より素直で真っ直ぐな音色になるでしょう。貴方が先に私の言葉を拒絶しました。
私は貴方の歌声、貴方の音色、貴方の声色、全て、全て大好きで愛しかったのに。
愛しくても、その唇に触れたくても、許せられない傷もあるのです。
貴方に、言葉を拒絶された私は、縋る程に純粋に貴方を思えなくなりました。
 だから、言葉を閉じ込めて、変わりに音として貴方に届けます。貴方に届く時には、直向きで、純粋な音色に生まれ変わっているでしょう。私の言葉は意味を持たなくても、私の音色は貴方に届くでしょうから。
 もう、貴方に優しい雪は降りません。代わりに、凍てつく雪が降るでしょう。
言葉は残さないけれど、さようならの変わりに、貴方に届きますように。彼女は、出口に向かって行った。

この運命の輪廻にうんざりして、やっと出口へ向かう。
これで雨は止むのかもしれない。俺はそう期待した。
永遠に思い続けるのは、僕はきっと不誠実な男だろう。
 今回は、二人の間に家柄も戦争も何も隔ては無かったのに、僕たちはお互いの手を離してしまった。結ばれたいと願いながら、その手をやっと離せれたんだ。
 時間は狂う。雷鳴の様に。
 もう終わりにしよう。
愛情はあっても、価値観が擦れ違えば一緒になんて居られないのだから。
僕は、沢山の扉の向こうをまだ開けずにいる。
どの扉を開けても、結論は変わらないのに、だ。彼女は一言も話さなずに去って行った。
話さずに去ったのは、話さなければ話さない程に、音に深みが生まれるからだ。
言葉の代わりに、涙が落ちる音を残して。