その手を離してしまったから?
一度も触れようとしなかったから?
 もう意地しか残っていないかのような、此処まで来てはもう、ただただこびり付いた忌々しい錆のようにしか感じられなかった。
例えるならば、雨。しっとりと降る雨の中、キミは雷鳴のように叫ぶ。
うねり、刻み、彷徨う時間の中、気持ちと身体がかくれんぼしている。
命が消えそうになると惜しくなる。
その証言が適切なのかもしれない。
 その白く滑らかな肌の温かみが忘れられないのだろうか。
終わりが見えない時間のうねりにもう疲れてしまった。
純粋で汚れもなく、ただただ相手を思うだけなのに。
繰り返す恐怖から、逃れられない。
何度でも思い出して、その状況で僕たちは結ばれないことを知り、雨に流されて行く。
僕は終わらせたいのかもしれない。
 キミが思い出さないように、キミを見つけても触れるのが怖くなった。
何度も何度も生まれ変わっても、僕は記憶が消えなくて。キミは上書きして生まれ変わる度に美しくなっていく。
なのに、なぜこの柵から抜け出せないでいるのか。何故君は、何度も裏切る僕をまた好きになってくれるのか。その問いを、僕は1000年近く聞けないでいる。
 どうか、僕を忘れて、誰かを心から愛してくれ。安っぽい愛の言葉を囁いていた僕を、キミは忘れて真摯に向き合う誰を愛するべきなんだ。