目を見開いた瞬間、溜まっていた涙が零れる。既に火を付けられて、バチバチと燃える城の中、キミは最後の最後で思い出してしまったんだ。触れたいと、寄りそいたいと、傍に居たいと願った僕のせいで。
「ごめんね。またいつか逢おう」
 短い言葉の中、まだ前世の記憶に呆然とするキミを、敵の家来が迎えに来た。
「またね」
「……いやよ。こんなことってないわ」
 僕が笑うとキミは僕に飛びかかろうとして、家来に取り押さえられた。
「何も言わず、また私の手を離すのね! 貴方が居ないのに私は一人で生きるのなんて、そんなの! そんなの死んでいるのと一緒だわ」
 叫ぶキミを、今度は僕は一度も振り返らずに燃え盛る天守閣へ登って行く。
「いやよ! 行かないで!」
 焦げ臭い香りが、前世の匂いを消して行く。焦げ付き、月があの夜の様に煙で消えていく。
キミが叫ぶ声を聞きながら、僕も眠ろう。

 この時代を思い出すのは、キミが庭でやっていた蹴鞠の音。燃え盛る炎の全てを燃やしてしまう赤。焦げて墨と化していく時間。キミの最期まで泣き叫ぶ声。
全てが燃えて消えてしまった後に、キミの降り注ぐ雨の音。
二回も結ばれなかった僕たちは、いい加減懲りて違う道を歩み出せば良かった。
忘れて、忘れて、キミを偲んで。

一度も僕たちは生涯を共にすることが出来なかったから、だから忘れられないのだろうか。
例えが、僕が猫としてキミの前に現れて、キミに愛されて人生を全うすれば俺達はお互い満足して、もう輪廻しないですむのかな。なんで、また近くで生まれ変わるのだろう。年齢が離れることもなく。性別が変わることもなく。
 何度、降り止まない雨を一緒に見上げただろうか。気づけばそれはもう呪いのように感じた。