「対抗馬、ってことですか」
「そう。なんかねぇ、先代の弟さんだかを推すらしいっていうのは私も聞いた」
先代の弟さんということは、絢乃さんのお祖父さまの弟さん、つまり大叔父ということか。
次男だから後継者からは脱落し、分家になったわけだ。それなのに、またも会長が代替わりすることとなり、彼が急きょ絢乃さんの対抗馬として祭り上げられたようだった。
「まぁでも、後継者争いでいちばん優先されるべきは遺言者本人の遺志のはずだから。間違いなく絢乃さんで決まりね」
「はい」
僕が安心して頷くと、先輩はそのにやけ顔から目敏く見抜いてしまった。
「桐島くんさぁ、もしかして絢乃さんのこと好きなの?」
「…………ええっ!?」
不覚にもズバッと指摘され、僕は不覚にもうろたえてしまった。
先輩にはウソがつけない。もちろん僕自身がウソが下手だということもあるが、彼女は鋭いのですぐにバレてしまうからだ。
「なななな……っ、なんで分かっちゃったんですか!?」
「動揺しすぎよ、桐島くん。だって、あなたって昔っからすっごく分かりやすいんだもん。もう顔に出すぎてバレバレ」
「…………」
俺ってそんなに分かりやすかったのか……。――僕はこの時初めて知った事実に愕然となった。
となると、絢乃さんにもバレバレだったのだろうか? それとも、僕に対してが初めての恋だった彼女は気づかなかったのか?
「……っていうのは冗談だけどさ。私、気づかなかったフリしててあげるよ。誰にも言わないでおいてあげるから。もちろん、絢乃さんにもね♪」
「……はぁ」
冗談だったんかい、というツッコミを僕はグッと飲み込んだ。それよりも、先輩が彼女に僕の気持ちを黙っていてくれるなら、そこはヨシとすべきだと思ったのだ。
それはさておき、僕には小川先輩が精一杯気を張っているように見え、それが気になって仕方がなかった。
「先輩は……、悲しくないんですか? 会長、もうすぐいなくなっちゃうんですよ? 先輩にとって源一会長はきっと――」
「悲しくないわけないじゃない。私だって悲しいよ。きっと絢乃さんより、加奈子さんよりずっと。……でも、悲しんでたところでどうしようもないでしょ? 奇跡でも起こらない限り、もう会長は……あの人は……」
特別な人、と言いかけた僕を遮り、彼女は興奮ぎみに本音を一気にまくし立てた。どうして本音だと分かったかというと、普段は「奥さま」と呼んでいた加奈子さんのことを名前で、源一会長のことを「あの人」と呼んでいたから。
でも、それは先輩がいちばん触れてほしくないことだったはずなので、僕はそのことには触れずにいた。
「そう。なんかねぇ、先代の弟さんだかを推すらしいっていうのは私も聞いた」
先代の弟さんということは、絢乃さんのお祖父さまの弟さん、つまり大叔父ということか。
次男だから後継者からは脱落し、分家になったわけだ。それなのに、またも会長が代替わりすることとなり、彼が急きょ絢乃さんの対抗馬として祭り上げられたようだった。
「まぁでも、後継者争いでいちばん優先されるべきは遺言者本人の遺志のはずだから。間違いなく絢乃さんで決まりね」
「はい」
僕が安心して頷くと、先輩はそのにやけ顔から目敏く見抜いてしまった。
「桐島くんさぁ、もしかして絢乃さんのこと好きなの?」
「…………ええっ!?」
不覚にもズバッと指摘され、僕は不覚にもうろたえてしまった。
先輩にはウソがつけない。もちろん僕自身がウソが下手だということもあるが、彼女は鋭いのですぐにバレてしまうからだ。
「なななな……っ、なんで分かっちゃったんですか!?」
「動揺しすぎよ、桐島くん。だって、あなたって昔っからすっごく分かりやすいんだもん。もう顔に出すぎてバレバレ」
「…………」
俺ってそんなに分かりやすかったのか……。――僕はこの時初めて知った事実に愕然となった。
となると、絢乃さんにもバレバレだったのだろうか? それとも、僕に対してが初めての恋だった彼女は気づかなかったのか?
「……っていうのは冗談だけどさ。私、気づかなかったフリしててあげるよ。誰にも言わないでおいてあげるから。もちろん、絢乃さんにもね♪」
「……はぁ」
冗談だったんかい、というツッコミを僕はグッと飲み込んだ。それよりも、先輩が彼女に僕の気持ちを黙っていてくれるなら、そこはヨシとすべきだと思ったのだ。
それはさておき、僕には小川先輩が精一杯気を張っているように見え、それが気になって仕方がなかった。
「先輩は……、悲しくないんですか? 会長、もうすぐいなくなっちゃうんですよ? 先輩にとって源一会長はきっと――」
「悲しくないわけないじゃない。私だって悲しいよ。きっと絢乃さんより、加奈子さんよりずっと。……でも、悲しんでたところでどうしようもないでしょ? 奇跡でも起こらない限り、もう会長は……あの人は……」
特別な人、と言いかけた僕を遮り、彼女は興奮ぎみに本音を一気にまくし立てた。どうして本音だと分かったかというと、普段は「奥さま」と呼んでいた加奈子さんのことを名前で、源一会長のことを「あの人」と呼んでいたから。
でも、それは先輩がいちばん触れてほしくないことだったはずなので、僕はそのことには触れずにいた。