「……まだ……ひとつも、思い出にもなってくれないの……」
「解ってる。忘れる気も、ないってことも」
「……」
「全てに耐えられるのは、俺くらいだ」
「だから一番いけないのよっ」
「……、俺は、そんなに駄目で嫌われていた?」
「ちが……っ」
「忘れたくないなら、俺が適任だよ。忘れられない消えてくれない失くしたくないなんて、こっちだって葛藤し過ぎで身にしみて痛くて堪んねえよ。後悔だって数えきれない。――否定なんて、しない。進もうと足掻いてるんだ。そのスピードに背中を押すことはあっても、転んでしまうくらいに急かしたりはしない」
「……」
「だから、どうか俺だけを見ないのはやめてくれ。これまでずっと傍に居たんだ――心も、もっと、もう少し、だけそっちに、居たいんだ。そうさせてくれ。手放さないでくれ」
捕まえた手首を引き、抱き寄せる。包み込んだ細い身体が抵抗されないからといって、こちらが望むものじゃないことなど解ってることが苦しくて。けど大切で離したくない。
小さな小さな、震える声が、耳と胸に響く。
「あなたとそうなることが一番辛いかもしれない」
「そうかもな」
「今までだって平気だったわけじゃない」
「知ってる」
「私が、駄目な人間なの」
「お互い様」
「きっと、私ばっかりが楽になるのよ。そんなの……」
「たくさん、ずっと考えて、それならいいと思ったんだ。それしか思えなかった」
「……」
「辛くないなんて、言わないけど」
「だったら……っ」
「忘れなくていい。――いつか、少しでも思い出になったら、そのときの今に、俺を入らせてよ。全部思い出になったら、過去はくれてやるし大切にするから、俺にそれからをくれ。他の男になんて渡してたまるか」
「そんなの……三年後五年後、何十年後かもしれない。どうしようもない私は、明日かもしれない。……死ぬときかも、しれない」
「それは、命の別れるそのときまで一緒にいられるっていうことだから」
だからどうかと、赦しを請うた。
――END――
「解ってる。忘れる気も、ないってことも」
「……」
「全てに耐えられるのは、俺くらいだ」
「だから一番いけないのよっ」
「……、俺は、そんなに駄目で嫌われていた?」
「ちが……っ」
「忘れたくないなら、俺が適任だよ。忘れられない消えてくれない失くしたくないなんて、こっちだって葛藤し過ぎで身にしみて痛くて堪んねえよ。後悔だって数えきれない。――否定なんて、しない。進もうと足掻いてるんだ。そのスピードに背中を押すことはあっても、転んでしまうくらいに急かしたりはしない」
「……」
「だから、どうか俺だけを見ないのはやめてくれ。これまでずっと傍に居たんだ――心も、もっと、もう少し、だけそっちに、居たいんだ。そうさせてくれ。手放さないでくれ」
捕まえた手首を引き、抱き寄せる。包み込んだ細い身体が抵抗されないからといって、こちらが望むものじゃないことなど解ってることが苦しくて。けど大切で離したくない。
小さな小さな、震える声が、耳と胸に響く。
「あなたとそうなることが一番辛いかもしれない」
「そうかもな」
「今までだって平気だったわけじゃない」
「知ってる」
「私が、駄目な人間なの」
「お互い様」
「きっと、私ばっかりが楽になるのよ。そんなの……」
「たくさん、ずっと考えて、それならいいと思ったんだ。それしか思えなかった」
「……」
「辛くないなんて、言わないけど」
「だったら……っ」
「忘れなくていい。――いつか、少しでも思い出になったら、そのときの今に、俺を入らせてよ。全部思い出になったら、過去はくれてやるし大切にするから、俺にそれからをくれ。他の男になんて渡してたまるか」
「そんなの……三年後五年後、何十年後かもしれない。どうしようもない私は、明日かもしれない。……死ぬときかも、しれない」
「それは、命の別れるそのときまで一緒にいられるっていうことだから」
だからどうかと、赦しを請うた。
――END――