「あれ?」
よろず屋の手前の角で、青くて透き通った、ぷよぷよした生き物が姿を見せた。建物の塀から、片目だけこちらに見せている。
スライムだ。
「スライムさん? どうしたの」
お店の外にいるなんてめずらしい。
私が話しかけても、スライムはこっちを見ているだけだった。なにか見えないように持っていて、私をおどろかせようとしているんだろうか。
「スライムさん?」
私が近づいていくと、ひゅっ、とスライムは顔をひっこめた。
「よーし」
私は、誘いにのってみようと、角に向かって走っていった。
そしてそのまま、ぱっ! と顔を出してみた。
すると、角の近くにいたスライムはびっくりしたのか、ぴょんっ、ととびあがると、ぴょん、ぴょん、ぴょん、と三回、私から離れるようにはねた。
私は首をかしげる。
「スライムさん? どうしたの」
スライムは私を見てから、するすると地面の上を進んでいって、止まる。
振り返って私を見る。
「ついてこいってこと?」
私が歩いていくと、スライムはちょっと離れる。
「言葉が離せなくなっちゃったの?」
私は自分で言って、なんだか胸が重くなった。それから背中がすっ、と寒いような気持ちになった。
スライムさんと話したり変なことをしたりできなくなるというのは、私が思っているよりも大きなことなのかもしれない。
「どうすればいい?」
私は言ってスライムに近づく。
スライムは離れる。
よろず屋が見えてきた。
元通りになるための方法があるのかもしれない。
スライムは私から離れるようにしながら、よろず屋に入っていった。
私も入る。
すると、カウンターの上を見て息が止まりそうだった。
スライムが二匹いた。
「あ、こんにちはさりーさん」
スライムさんは言った。
「え、え、どういうこと?」
まちがっている名前を訂正するどころではなかった。
もう一匹のスライムは黙っている。
「これはやせいのすらいむですね」
スライムさんは言った。
「野生?」
「あぶないですよ」
スライムさんは言った。
「ちょっと、まちのそとにだしてきますから、まっててください」
スライムさんは言って、言葉を話さないスライムに、軽く体当たりをし、お店の外に押し出していった。
よろず屋の中で待っていると、外で大声を出している人がいた。スライムが逃げたから、女性や子どもは外に出ないように、ということだった。もうひとりやってきてその人と話しているのを聞いていると、どうやら、町の中にスライムを連れてきた人がいるらしいとわかった。町中で戦いの練習をするため、そのようにしたらしいが、魔物を町に入れるのは禁止されている。厳重に、檻に入れるなどして管理している場合だけが許される。
自分の都合で勝手なことをするな、という怒りがあった。それとともに、外で、野生のスライムはかみついたり体当たりをする、という注意の声が聞こえてくるたび、私は、なにも考えずスライムに近づいていたことが、いまになってちょっと怖くなった。
はっとした。
スライムさんがかんちがいされて、殺されてしまったら。
私が出ようとすると、スライムさんが帰ってきた。
「やあ! あぶなかったですね!」
私はそんなスライムさんにしがみついた。
「ど、どうしましたか?」
「……なんでもない」
私はすぐスライムさんから離れた。あったかくなるのはスライムさんの体によくないかもしれない。
「スライムさんはだいじょうぶだった?」
「ぼくはだいじょうぶですよ! すごいすらいむですから! せっとくすることができますので!」
「よかった」
スライムさんはカウンターの上に乗った。
「さて、きょうはどんなごようですか!」
いつものようにそう言った。
よろず屋の手前の角で、青くて透き通った、ぷよぷよした生き物が姿を見せた。建物の塀から、片目だけこちらに見せている。
スライムだ。
「スライムさん? どうしたの」
お店の外にいるなんてめずらしい。
私が話しかけても、スライムはこっちを見ているだけだった。なにか見えないように持っていて、私をおどろかせようとしているんだろうか。
「スライムさん?」
私が近づいていくと、ひゅっ、とスライムは顔をひっこめた。
「よーし」
私は、誘いにのってみようと、角に向かって走っていった。
そしてそのまま、ぱっ! と顔を出してみた。
すると、角の近くにいたスライムはびっくりしたのか、ぴょんっ、ととびあがると、ぴょん、ぴょん、ぴょん、と三回、私から離れるようにはねた。
私は首をかしげる。
「スライムさん? どうしたの」
スライムは私を見てから、するすると地面の上を進んでいって、止まる。
振り返って私を見る。
「ついてこいってこと?」
私が歩いていくと、スライムはちょっと離れる。
「言葉が離せなくなっちゃったの?」
私は自分で言って、なんだか胸が重くなった。それから背中がすっ、と寒いような気持ちになった。
スライムさんと話したり変なことをしたりできなくなるというのは、私が思っているよりも大きなことなのかもしれない。
「どうすればいい?」
私は言ってスライムに近づく。
スライムは離れる。
よろず屋が見えてきた。
元通りになるための方法があるのかもしれない。
スライムは私から離れるようにしながら、よろず屋に入っていった。
私も入る。
すると、カウンターの上を見て息が止まりそうだった。
スライムが二匹いた。
「あ、こんにちはさりーさん」
スライムさんは言った。
「え、え、どういうこと?」
まちがっている名前を訂正するどころではなかった。
もう一匹のスライムは黙っている。
「これはやせいのすらいむですね」
スライムさんは言った。
「野生?」
「あぶないですよ」
スライムさんは言った。
「ちょっと、まちのそとにだしてきますから、まっててください」
スライムさんは言って、言葉を話さないスライムに、軽く体当たりをし、お店の外に押し出していった。
よろず屋の中で待っていると、外で大声を出している人がいた。スライムが逃げたから、女性や子どもは外に出ないように、ということだった。もうひとりやってきてその人と話しているのを聞いていると、どうやら、町の中にスライムを連れてきた人がいるらしいとわかった。町中で戦いの練習をするため、そのようにしたらしいが、魔物を町に入れるのは禁止されている。厳重に、檻に入れるなどして管理している場合だけが許される。
自分の都合で勝手なことをするな、という怒りがあった。それとともに、外で、野生のスライムはかみついたり体当たりをする、という注意の声が聞こえてくるたび、私は、なにも考えずスライムに近づいていたことが、いまになってちょっと怖くなった。
はっとした。
スライムさんがかんちがいされて、殺されてしまったら。
私が出ようとすると、スライムさんが帰ってきた。
「やあ! あぶなかったですね!」
私はそんなスライムさんにしがみついた。
「ど、どうしましたか?」
「……なんでもない」
私はすぐスライムさんから離れた。あったかくなるのはスライムさんの体によくないかもしれない。
「スライムさんはだいじょうぶだった?」
「ぼくはだいじょうぶですよ! すごいすらいむですから! せっとくすることができますので!」
「よかった」
スライムさんはカウンターの上に乗った。
「さて、きょうはどんなごようですか!」
いつものようにそう言った。