道を歩いていると、よろず屋の前にはスライムさんがいるのが見えた。
私が手を振ったら、スライムさんもぴょんぴょんと、応答してくれた。
それだけじゃなくて、ぴょぴょぴょぴょ、と走ってくる。
「えいむさーん、いらっしゃいませー!」
私の前で、ぴたっ、と止まった。
「こんにちは。ずいぶん早い、いらっしゃいませだね」
よろず屋からは、ちょっと離れてしまった。
「そこです!」
びしっ、とスライムさんが三角形になった。
そのとがった部分で私を指していた。
「どこ?」
「ぼくはかんがえました。そしてあきらめました」
「なにを?」
「おみせは、どこまでがおみせなのか、です」
私は、道を行った先にあるよろず屋を見た。
「あそこ」
「ちがいます!」
「ちがうの?」
「ちがいません! あれはぼくのおみせです! ああもう! これだから、えいむさんはえいむさんなんですよ!」
「えっと?」
「ちょっときてください!」
私とスライムさんは、よろず屋の前まで行った。
「いいですか? ……いらっしゃいませ!」
スライムさんは、お店の中から言った。
「なにか、おかしかったですか?」
「ううん」
「では」
スライムさんは、入り口の前まで出てきた。
「いらっしゃいませ! これは、おかしいですか?」
「ううん」
スライムさんは、なにを言いたいのだろう。
スライムさんは、私にもうちょっとさがるように言った。
結局、二十歩くらい、お店から離れた。
「いらっしゃいませ! これは、へんですか?」
「変っていうか。ちょっと、早いかな。お店から離れてるし」
「それです!」
「え?」
「ぼくが、おみせのそとであいさつをしたときは、もう、おみせのなかじゃなかった! なのに、へんじゃなかった! ここまではなれたら、へんになった! じゃあ、おみせは、どこまでなんですか! ぼくのおみせは、どこにあるんですか!」
「あそこにあるよ」
私はよろず屋を指した。
「そういうことじゃありません!」
「うん」
もちろんわかってる。
わかってるけどわからない。
たしかに、スライムさんが言うとおり、お店の外でいらっしゃい、というのは変かもしれない。
でも変じゃないような気もする。
「ぼくは、よろずやがどこまでなのかがわからないなら、どうしたらいいか……」
「気にしないで、いままでどおりやればいいと思うけど」
「そんないいかげんなことでいいとおもってるんですか!」
スライムさんは言う。
「えいむさん! もっと、きちっと、しなければいけませんよ!」
「えっと……?」
「わるいことをしたら、あやまるんです!」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
「でも、どうして急にそんなことを考えたの?」
「こほん。それはですね。さっきぼくは、えいむさんがもうすぐくるんじゃないかとおもって、おいしいやくそうをよういしていました」
「ありがとう」
「でも、ただあげるよりも、ちょっとびっくりさせたほうがおもしろいとおもったんです!」
「……それで?」
「そとにでて、えいむさんの、うしろをついていって、おみせにはいったとたん、うしろからこえをかけたら、びっくりするとおもったんです!」
楽しげなスライムさんの表情がくもった。
「でも、ぼくはおもいました。これは、えいむさんを、ぼくのおみせでおどかしているのだろうか。ぼくのおみせでえいむさんをおどかすならいいですけど、そとで、えいむさんをおどかすのは、わるいことをしているんじゃないかと。ぼくは、そうかんがえたのです……」
「なるほど」
私は腕組みをした。
「スライムさんは、私をおどかすなら、自分のお店の中じゃないといけないと思ったんだ」
「そうです」
「それなら、私には、ふたつ、言いたいことがあります」
「なんですか?」
スライムさんは私を見上げた。
「まず、どこであいさつをしても、スライムさんのお店は、あそこだと思う」
私はよろず屋を指した。
「あいさつを早めにしただけで、お店の場所は変わったりしないと思うよ」
「なるほど……。ぼくのおみせは、かわらない!」
「うん」
「やりました!」
スライムさんは、ぴょんぴょんした。
「あと、スライムさん?」
「なんですか?」
「私をおどかそうとしたんだよね?」
「はい」
「悪いことをしようとしたんだよね」
「……おや?」
「したんだよね?」
「……はい」
「悪いことをしたら?」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
私が笑うと、スライムさんも笑った。
それからスライムさんの笑いが引っこんだ。
「でも、ぼくはまだ、わるいことをしてませんよね……? わるいことをしようとしたばあいは、あやまったほうが、いいんですかね……?」
「うーん……?」
今度は、私もしばらく考えることになった。
私が手を振ったら、スライムさんもぴょんぴょんと、応答してくれた。
それだけじゃなくて、ぴょぴょぴょぴょ、と走ってくる。
「えいむさーん、いらっしゃいませー!」
私の前で、ぴたっ、と止まった。
「こんにちは。ずいぶん早い、いらっしゃいませだね」
よろず屋からは、ちょっと離れてしまった。
「そこです!」
びしっ、とスライムさんが三角形になった。
そのとがった部分で私を指していた。
「どこ?」
「ぼくはかんがえました。そしてあきらめました」
「なにを?」
「おみせは、どこまでがおみせなのか、です」
私は、道を行った先にあるよろず屋を見た。
「あそこ」
「ちがいます!」
「ちがうの?」
「ちがいません! あれはぼくのおみせです! ああもう! これだから、えいむさんはえいむさんなんですよ!」
「えっと?」
「ちょっときてください!」
私とスライムさんは、よろず屋の前まで行った。
「いいですか? ……いらっしゃいませ!」
スライムさんは、お店の中から言った。
「なにか、おかしかったですか?」
「ううん」
「では」
スライムさんは、入り口の前まで出てきた。
「いらっしゃいませ! これは、おかしいですか?」
「ううん」
スライムさんは、なにを言いたいのだろう。
スライムさんは、私にもうちょっとさがるように言った。
結局、二十歩くらい、お店から離れた。
「いらっしゃいませ! これは、へんですか?」
「変っていうか。ちょっと、早いかな。お店から離れてるし」
「それです!」
「え?」
「ぼくが、おみせのそとであいさつをしたときは、もう、おみせのなかじゃなかった! なのに、へんじゃなかった! ここまではなれたら、へんになった! じゃあ、おみせは、どこまでなんですか! ぼくのおみせは、どこにあるんですか!」
「あそこにあるよ」
私はよろず屋を指した。
「そういうことじゃありません!」
「うん」
もちろんわかってる。
わかってるけどわからない。
たしかに、スライムさんが言うとおり、お店の外でいらっしゃい、というのは変かもしれない。
でも変じゃないような気もする。
「ぼくは、よろずやがどこまでなのかがわからないなら、どうしたらいいか……」
「気にしないで、いままでどおりやればいいと思うけど」
「そんないいかげんなことでいいとおもってるんですか!」
スライムさんは言う。
「えいむさん! もっと、きちっと、しなければいけませんよ!」
「えっと……?」
「わるいことをしたら、あやまるんです!」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
「でも、どうして急にそんなことを考えたの?」
「こほん。それはですね。さっきぼくは、えいむさんがもうすぐくるんじゃないかとおもって、おいしいやくそうをよういしていました」
「ありがとう」
「でも、ただあげるよりも、ちょっとびっくりさせたほうがおもしろいとおもったんです!」
「……それで?」
「そとにでて、えいむさんの、うしろをついていって、おみせにはいったとたん、うしろからこえをかけたら、びっくりするとおもったんです!」
楽しげなスライムさんの表情がくもった。
「でも、ぼくはおもいました。これは、えいむさんを、ぼくのおみせでおどかしているのだろうか。ぼくのおみせでえいむさんをおどかすならいいですけど、そとで、えいむさんをおどかすのは、わるいことをしているんじゃないかと。ぼくは、そうかんがえたのです……」
「なるほど」
私は腕組みをした。
「スライムさんは、私をおどかすなら、自分のお店の中じゃないといけないと思ったんだ」
「そうです」
「それなら、私には、ふたつ、言いたいことがあります」
「なんですか?」
スライムさんは私を見上げた。
「まず、どこであいさつをしても、スライムさんのお店は、あそこだと思う」
私はよろず屋を指した。
「あいさつを早めにしただけで、お店の場所は変わったりしないと思うよ」
「なるほど……。ぼくのおみせは、かわらない!」
「うん」
「やりました!」
スライムさんは、ぴょんぴょんした。
「あと、スライムさん?」
「なんですか?」
「私をおどかそうとしたんだよね?」
「はい」
「悪いことをしようとしたんだよね」
「……おや?」
「したんだよね?」
「……はい」
「悪いことをしたら?」
「ごめんなさい」
「すなおでよろしい!」
私が笑うと、スライムさんも笑った。
それからスライムさんの笑いが引っこんだ。
「でも、ぼくはまだ、わるいことをしてませんよね……? わるいことをしようとしたばあいは、あやまったほうが、いいんですかね……?」
「うーん……?」
今度は、私もしばらく考えることになった。