雨の日、私はレインコートを着てよろず屋に向かった。
するとお店の入り口には、おやすみ、という看板がかかっていた。
「スライムさん?」
いちおう声をかけてみたけれど、待っていても戸が開くことはなかった。おやすみらしい。
私は帰ろうとしたけれども、お店の裏でなにか音がしたような気がして足を止めた。雨音とはちがう音だった。大きなものが動くような、そんな音に聞こえた。
よろず屋の建物にそって歩いていく。
裏をのぞいてみた。
よろず屋の裏は庭のようになっていた。この前急いで探した水場と桶はすぐ近くにあって、奥に、土から緑色の葉がたくさん出ているのが見えた。スライムさんが育てているという薬草だろう。
しかしなにより、一番気になったのは、薬草畑の手前にあるものだ。
いる、といったほうがいいかもしれない。
透き通った青色の、ぷよぷよしたものがあった。私のベッドくらいの大きさがあり、波打っている。
見ていたら、ゴロリ、と反転した。土の上に巨人が足を置いたみたいな、どっしりした音がした。さっきの音はこれだろう。
土のついた面が上になって、それが雨でゆっくり洗い流されていく。
「スライムさん?」
私が言うと、横の部分に目と口が開いた。
「こんにちは! どうしたんですか!」
「スライムさんがどうしたの」
「ぼくはちょっと、すいぶんほきゅうです」
「水分補給?」
「あめのひには、こうしてそらからのみずをうけて、おおきくなるのです。すると、かっこいいでしょう!」
スライムさんは、顔が私と向き合うように体の向きを変えた。でも、安定しないでふらふらとゆれている。
「ちょっと危ないよ。もっとこっちに」
見かねて、私がスライムさんの位置を整えに行くと、スライムさんがちょうど私の方に傾いた。
「あ」
「あぶない」
スライムさんは避けようとして私から離れる方向に身体を動かしたけれど、それが中途半端になって、逆に反動をつけたように私にスライムさんが倒れてきた。
ジャブン、と音がした。
まわりが青く見える。
「だいじょうぶですか」
スライムさんの声が、私を包むように聞こえてきた。
「ここは?」
「ぼくのなかです」
スライムさんが言った。
スライムさんが水で体を大きくしたぶん、体の表面がやわらかくなってしまっているようだった。だから、私がスライムさんの表面を突き抜けてしまったらしい。
「スライムさん、痛くない?」
「へいきですよ。へれんさんはくるしくないですか?」
「エイムです。あ、苦しくない」
そういえばスライムさんの中にいるのに、呼吸ができる。水の中にいるのとはまたちがうのだろうか。
水じゃないのかと、ちょっと動いてみると、中で浮かんだ。
「わ」
「およいでますね?」
「私、泳いだことないよ」
体がスライムさんの中でくるーりと一回転した。
「わ、わ」
「おちついてください。だいじょうぶですよ」
スライムさんの声がまわりに響く。
「わかった」
なんとなくわかってきた。
力を抜いて、足をばたばたさせると、スライムさんの頭の上に出た。
顔が外に出ると、雨が当たる。
「高い」
横を見ると、私は、よろず屋の屋根と同じくらいの高さになっていた。
「うごいてみますね?」
スライムさんがゆらゆらと前進する。
「わわ」
「こわいですか?」
「ううん。おもしろい」
高いところだけど、スライムさんの中に沈むだけだから、恐怖心というものはなかった。
「じゃあ、いきますよ!」
「わー」
私はスライムさんに乗って、よろず屋の庭を散歩した。
するとお店の入り口には、おやすみ、という看板がかかっていた。
「スライムさん?」
いちおう声をかけてみたけれど、待っていても戸が開くことはなかった。おやすみらしい。
私は帰ろうとしたけれども、お店の裏でなにか音がしたような気がして足を止めた。雨音とはちがう音だった。大きなものが動くような、そんな音に聞こえた。
よろず屋の建物にそって歩いていく。
裏をのぞいてみた。
よろず屋の裏は庭のようになっていた。この前急いで探した水場と桶はすぐ近くにあって、奥に、土から緑色の葉がたくさん出ているのが見えた。スライムさんが育てているという薬草だろう。
しかしなにより、一番気になったのは、薬草畑の手前にあるものだ。
いる、といったほうがいいかもしれない。
透き通った青色の、ぷよぷよしたものがあった。私のベッドくらいの大きさがあり、波打っている。
見ていたら、ゴロリ、と反転した。土の上に巨人が足を置いたみたいな、どっしりした音がした。さっきの音はこれだろう。
土のついた面が上になって、それが雨でゆっくり洗い流されていく。
「スライムさん?」
私が言うと、横の部分に目と口が開いた。
「こんにちは! どうしたんですか!」
「スライムさんがどうしたの」
「ぼくはちょっと、すいぶんほきゅうです」
「水分補給?」
「あめのひには、こうしてそらからのみずをうけて、おおきくなるのです。すると、かっこいいでしょう!」
スライムさんは、顔が私と向き合うように体の向きを変えた。でも、安定しないでふらふらとゆれている。
「ちょっと危ないよ。もっとこっちに」
見かねて、私がスライムさんの位置を整えに行くと、スライムさんがちょうど私の方に傾いた。
「あ」
「あぶない」
スライムさんは避けようとして私から離れる方向に身体を動かしたけれど、それが中途半端になって、逆に反動をつけたように私にスライムさんが倒れてきた。
ジャブン、と音がした。
まわりが青く見える。
「だいじょうぶですか」
スライムさんの声が、私を包むように聞こえてきた。
「ここは?」
「ぼくのなかです」
スライムさんが言った。
スライムさんが水で体を大きくしたぶん、体の表面がやわらかくなってしまっているようだった。だから、私がスライムさんの表面を突き抜けてしまったらしい。
「スライムさん、痛くない?」
「へいきですよ。へれんさんはくるしくないですか?」
「エイムです。あ、苦しくない」
そういえばスライムさんの中にいるのに、呼吸ができる。水の中にいるのとはまたちがうのだろうか。
水じゃないのかと、ちょっと動いてみると、中で浮かんだ。
「わ」
「およいでますね?」
「私、泳いだことないよ」
体がスライムさんの中でくるーりと一回転した。
「わ、わ」
「おちついてください。だいじょうぶですよ」
スライムさんの声がまわりに響く。
「わかった」
なんとなくわかってきた。
力を抜いて、足をばたばたさせると、スライムさんの頭の上に出た。
顔が外に出ると、雨が当たる。
「高い」
横を見ると、私は、よろず屋の屋根と同じくらいの高さになっていた。
「うごいてみますね?」
スライムさんがゆらゆらと前進する。
「わわ」
「こわいですか?」
「ううん。おもしろい」
高いところだけど、スライムさんの中に沈むだけだから、恐怖心というものはなかった。
「じゃあ、いきますよ!」
「わー」
私はスライムさんに乗って、よろず屋の庭を散歩した。