私はよろず屋に入ってすぐドアを閉めた。

「いらっしゃいませ!」
 スライムさんがカウンターの上に乗る。
「寒いね」
「そうですね。なかなかです」
「息が白くなってたもん」

 私は息をはいてみた。
 店内でも、息が白くなる。

「スライムさんは寒くないの?」
「あんまりさむいと、こおってしまうので、ふべんですね!」
「あ、そう……」
 さすがスライムさん。

「私なんて、寒いとなかなかベッドから出られなくて。ついつい二度寝しちゃう」
「さむいと、おきられませんか?」
「うん。ちゃんと、すぐ起きたいんだけどね」
「さむくて、おきられない……。それなら、いいものがありますよ!」
「あるの?」
「はい!」

 スライムさんは奥に行くと、箱を引きずってもどってきた。
「これです!」
 開けてみると、中にはふわふわのふとんが入っていた。
 と思って広げてみたら、なんだかちがう。
 全体は四角いけれども、穴が空いていたり、開けるところがあったり。

「これは?」
「きる、ふとんです」
「着るふとん?」
「そうです。それをきれば、べっとにいながらにして、おきられるのです! りょうりつです!」
「おお……」
 発想の転換だ。

「きてみますか!」
「うん」
 私は、服の上から着るふとんを着てみた。

「うわー、ふわふわであったかい!」
 足首くらいまでの丈があるので、ぽかぽかだ。
「でしょう!」
 ふわふわで、とってもあったかいのに、全然重くない。
 ちょっと厚手の上着を着ているくらいの感覚だった。

「それは、こどもようで、おとなようもありますよ!」
「これ売れてるの?」
「まだ買った人はいませんね」
「そうなの? これを売ってるって、みんな知らないんじゃない? 宣伝した?」
「えいむさん、しりませんか? いいものというのは、うれるものなんですよ! すぐうれます!」
「うーん……」
 私は腕組みをした。

「スライムさん。いいものは売れると思うけど、全然知られてないのは、売れないと思うよ」
「そんなばかな!」
「だって、売れてないんでしょ?」
「たしかに!」
「うーん。でも、どうしたら……、そうだ」
「なんですか?」
「そうだ。私がそれを着て、町を歩いてみようか。宣伝になるよ」

 そうすれば、みんなこの着るふとんに興味を持ってくれるかもしれない。
「なるほど! さっそくやりましょう!」
「そうしよう!」


 私はスライムさんと、ちょっと大きな通りを歩いていた。
「スライムさん……」
 私は小声で言った。
「えいむさん! もっとはりきってください!」
「えっと、スライムさん……」

 人通りのある方へ行ってみて、気づいたことがあった。
 みんな、じろじろ私を見てくる。
 それはそうだ。
 ふとんを着て歩いている人がいるんだから。
 うっかりしていた……!

「スライムさん、そろそろ、終わりに……」
「えいむさん、むねをはって、げんきに!」
「あの……、これは室内用だったよ……」
「このまま、まちを2しゅうくらいは、しましょうね!」
「!! ……スライムさん……!」

 私はそれからすこし歩いたけれども、がまんできなくなって、スライムさんを抱えてよろず屋まで走ってもどった。