すっきりと晴れた日だった。
「あれ?」
いつものようによろず屋に入ろうとしたら、おやすみ、となっていた。
出入り口の前で昨日のことを考えたけれども、スライムさんがなにか言っていたような覚えはない。
軽くノックして呼びかけてみたけれども、返事はなかった。
しょうがない。
帰ろうと、後ろを向きかけたとき、お店の裏のほうから、ぱしゃん、という水音が聞こえた。
「あっ」
声もした。
裏にまわってみると、倒れたバケツと、スライムさんがいた。
スライムさんは草が生えているところにいて、目をつぶって顔? を上に向けていた。
バケツはすぐ横に倒れている。
横になっている、のだろうか。
「スライムさん?」
「……」
返事がなかったので、私は倒れたバケツを起こして、水場に持っていって片づけた。
「むにゃむにゃありがとうございますむにゃむにゃ」
声に振り返ると、スライムさんはさっきまでと同じように目をつぶっていた。
「起きてるの?」
「おきてはいないのですがむにゃむにゃ、ばけつを、かたづけてもらってありがむにゃむにゃ」
「バケツはどうして倒れたの?」
「すいぶんを、ほきゅうしてから、ひるねをしようとしたら、ばけつにはいったとき、たおれてしまったんです。じめんにころがったので、そのまま、ひるねをしようと。あ、むにゃむにゃ!」
元気のいい、むにゃむにゃだった。
「起こして片づければよかったのに」
「えいむさんなら、こっちにきて、このようすをみたら、しょうがないなあ、とかたづけてくれると、かくしんしておりました。むにゃ」
「そんなこと確信しなくていいのに。どうして寝てるの?」
「たまには、ゆっくりやすんでも、いいかとおもいまして」
「え?」
「ああわかってますよ、ぼくがまいにちやすまずはたらいているから、やすんだほうがいい、ということですよね? わかってますわかってます。むにゃ」
「えっと……」
「では、むにゃ!」
スライムさんは口を閉じた。
本格的に昼寝をしようとしているようだ。
「そういえば、スライムって、寝るんだね」
「…………」
「スライムさん?」
「…………」
むにゃとも言わなくなってしまった。
まだ寝たふりをしているのかと、しゃがんで、つんつん、とつっついてみる。
「…………」
無反応だった。
私はとなりに座って、いっそうつんつんしてみる。
それでもスライムさんは反応なしだった。
ずいぶんがまんしているみたいだ。
今度は、ぷに、ぷに、と強めに押してみる。
手が、ぐぐぐ、とスライムさんの体を押していき、スライムさんの体がのびる。
それでもスライムさんは目を開けない。
本当に寝てるのかな、と思ったけれども、ここまでやっているのに起きないというのは、逆に不自然だ。
「スライムさん?」
寝たふりをしているにちがいない。
そう思ってもっとぎゅうぎゅう押したり、引っぱってのばしたりしてみる。
やりすぎにも思えたけれども、私も止まらなくなってしまった。
ぎゅうぎゅう。
ぐいぐい。
「…………」
まだ目を開けない。
「よーし」
そこまで耐えるなら、と私は最後の手段に出た。
スライムさんの上に乗ってみた。
ひざで乗ってみた。
ひんやりとした体が、私の体重に押されてのびていく。
のびるけれども、雨の日とちがって充分な弾力があって、ベッドの上にいるのとはまた別の感触だった。
ひざ、すね、と乗ってもスライムさんは目を開けない。
そのまま、私は体を丸めるようにして横になる。
すると、すっかり全身がスライムさんの上に乗ることができた。
バケツの水で水分をたくわえていたと言っていたから、いつもより大きいのかもしれない。
平べったくなったスライムさんは、それでも目を開けない。
ほんのちょっと体をゆらしてみると、スライムさんの弾力が感じられる。
水でできたベッドの上にいるみたいだった。
ちょっときゅうくつだけど、特別な気持ちよさがあった。
「……むさん、えいむさん、えいむさん!」
すぐ近くから聞こえてきた声に、はっとして体を起こそうとしたら、地面がくるっと回って私は草原に落ちた。
「いたた」
「えいむさん、だいじょうぶですか?」
スライムさんが横にいた。
「えっと……」
「ぼくのうえでねてたんですよ」
「あ」
スライムさんの上に乗って、そのまま……?
「びっくりしましたよ!」
「私も。寝ちゃうなんて」
「きもちよかったですか?」
「え? あ、うん、まあまあ、かな」
「まあまあですか?」
「うん。ついうとうとしちゃったけど、やっぱり本物のベッドのほうがいいかな」
「そうですか……。なんだか、おねがいをするまえに、ことわられたような、ふくざつなきもちです」
「ふふふ」
本当はとっても気持ちよかった。
これで手足をのばして眠れたらどんなに気持ちいだろう、今晩からでもスライムさんのベッドで眠りたい、と思ったけれど、それを言ったら本当にそうしてくれそうで、とても迷惑になってしまうから秘密にしておいた。
「あれ?」
いつものようによろず屋に入ろうとしたら、おやすみ、となっていた。
出入り口の前で昨日のことを考えたけれども、スライムさんがなにか言っていたような覚えはない。
軽くノックして呼びかけてみたけれども、返事はなかった。
しょうがない。
帰ろうと、後ろを向きかけたとき、お店の裏のほうから、ぱしゃん、という水音が聞こえた。
「あっ」
声もした。
裏にまわってみると、倒れたバケツと、スライムさんがいた。
スライムさんは草が生えているところにいて、目をつぶって顔? を上に向けていた。
バケツはすぐ横に倒れている。
横になっている、のだろうか。
「スライムさん?」
「……」
返事がなかったので、私は倒れたバケツを起こして、水場に持っていって片づけた。
「むにゃむにゃありがとうございますむにゃむにゃ」
声に振り返ると、スライムさんはさっきまでと同じように目をつぶっていた。
「起きてるの?」
「おきてはいないのですがむにゃむにゃ、ばけつを、かたづけてもらってありがむにゃむにゃ」
「バケツはどうして倒れたの?」
「すいぶんを、ほきゅうしてから、ひるねをしようとしたら、ばけつにはいったとき、たおれてしまったんです。じめんにころがったので、そのまま、ひるねをしようと。あ、むにゃむにゃ!」
元気のいい、むにゃむにゃだった。
「起こして片づければよかったのに」
「えいむさんなら、こっちにきて、このようすをみたら、しょうがないなあ、とかたづけてくれると、かくしんしておりました。むにゃ」
「そんなこと確信しなくていいのに。どうして寝てるの?」
「たまには、ゆっくりやすんでも、いいかとおもいまして」
「え?」
「ああわかってますよ、ぼくがまいにちやすまずはたらいているから、やすんだほうがいい、ということですよね? わかってますわかってます。むにゃ」
「えっと……」
「では、むにゃ!」
スライムさんは口を閉じた。
本格的に昼寝をしようとしているようだ。
「そういえば、スライムって、寝るんだね」
「…………」
「スライムさん?」
「…………」
むにゃとも言わなくなってしまった。
まだ寝たふりをしているのかと、しゃがんで、つんつん、とつっついてみる。
「…………」
無反応だった。
私はとなりに座って、いっそうつんつんしてみる。
それでもスライムさんは反応なしだった。
ずいぶんがまんしているみたいだ。
今度は、ぷに、ぷに、と強めに押してみる。
手が、ぐぐぐ、とスライムさんの体を押していき、スライムさんの体がのびる。
それでもスライムさんは目を開けない。
本当に寝てるのかな、と思ったけれども、ここまでやっているのに起きないというのは、逆に不自然だ。
「スライムさん?」
寝たふりをしているにちがいない。
そう思ってもっとぎゅうぎゅう押したり、引っぱってのばしたりしてみる。
やりすぎにも思えたけれども、私も止まらなくなってしまった。
ぎゅうぎゅう。
ぐいぐい。
「…………」
まだ目を開けない。
「よーし」
そこまで耐えるなら、と私は最後の手段に出た。
スライムさんの上に乗ってみた。
ひざで乗ってみた。
ひんやりとした体が、私の体重に押されてのびていく。
のびるけれども、雨の日とちがって充分な弾力があって、ベッドの上にいるのとはまた別の感触だった。
ひざ、すね、と乗ってもスライムさんは目を開けない。
そのまま、私は体を丸めるようにして横になる。
すると、すっかり全身がスライムさんの上に乗ることができた。
バケツの水で水分をたくわえていたと言っていたから、いつもより大きいのかもしれない。
平べったくなったスライムさんは、それでも目を開けない。
ほんのちょっと体をゆらしてみると、スライムさんの弾力が感じられる。
水でできたベッドの上にいるみたいだった。
ちょっときゅうくつだけど、特別な気持ちよさがあった。
「……むさん、えいむさん、えいむさん!」
すぐ近くから聞こえてきた声に、はっとして体を起こそうとしたら、地面がくるっと回って私は草原に落ちた。
「いたた」
「えいむさん、だいじょうぶですか?」
スライムさんが横にいた。
「えっと……」
「ぼくのうえでねてたんですよ」
「あ」
スライムさんの上に乗って、そのまま……?
「びっくりしましたよ!」
「私も。寝ちゃうなんて」
「きもちよかったですか?」
「え? あ、うん、まあまあ、かな」
「まあまあですか?」
「うん。ついうとうとしちゃったけど、やっぱり本物のベッドのほうがいいかな」
「そうですか……。なんだか、おねがいをするまえに、ことわられたような、ふくざつなきもちです」
「ふふふ」
本当はとっても気持ちよかった。
これで手足をのばして眠れたらどんなに気持ちいだろう、今晩からでもスライムさんのベッドで眠りたい、と思ったけれど、それを言ったら本当にそうしてくれそうで、とても迷惑になってしまうから秘密にしておいた。