どんよりとした、くもり空のある日、私はあることを考えながら、よろず屋にでかけた。
めずらしくスライムさんはお店の前にいて、キョロキョロしながら歩いている。
「こんにちは、スライムさん」
私が言うと、スライムさんは動きを止め、こっちを見た。
「どうもどうも! おさんぽですか!」
「ちょっと気になったことがあってお店に来たの。スライムさんはなにしてたの?」
「みずたまりが、ありましてねえ……」
「ああ」
最近は雨が多いこともあって、お店の前や、近くの道に水たまりができていた。
「水たまりがどうしたの?」
「ぼくのばあい、うっかりはいってしまうと、みずをすって、やや、おおきくなってしまうので」
「そっか。じゃまだよね」
「つちでうめるのも、めんどうですし……。ところで、えいむさん! きになったことって、なんですか!」
「あ、うん。ほら、昨日洗たくものがかわかない、っていう話、したでしょ?」
「はい! にんげんは、はだがかいちばん! というおはなしですね?」
「はだかはあきらめよう、っていう話だよ。えっと、それで、この前、かわきのいし、っていうの、あったでしょ?」
スライムさんの水分がすっかり抜けてしまったり、私の指まで大変なことになった事件の原因となった石だ。
「あれはあぶないですよ! くせになりましたか?」
「あれじゃなくて、あれより力が弱い、ちょっとかわく石、ってない?」
「よわいものですか?」
「いろいろな効果の石あるんでしょ?」
「はい!」
「効果の強さの差も、あるかなと思って」
「ははあ、たしかありますね。なんどもつかえる、というわけではないですけど、そのぶん、おやすいです」
「そうなの?」
「ひとつ、10ごーるどです!」
めずらしく、本当に安い。
「それ見たい」
「わかりました! さがしてみます!」
スライムさんはお店の中に入っていった。
それから私は、お店の裏の、薬草の様子を見に行ったり、スライムさんが新入荷した果実薬草をもらって食べたりしながらしばらく待った。
まだ時間がかかるというので、いったん帰って、洗たくものから、ぬれたタオルを持ってもどってきたところで、スライムさんが出てきた。
「いやー、ありましたありました!」
スライムさんが、頭に箱をのせてお店から出てきた。
かわいている地面に置いた。
「おつかれさま」
「どうぞ!」
スライムさんくらいの大きさがある、しっかりした紙の箱だった。
箱を開けると、直径が硬貨くらいの大きさの小石がたくさん入っていた。
どれも、球に近い、まんまるの形だった。
「こんなにたくさん、運ぶの大変だったでしょ?」
「ぜんぜんです! もってみてください!」
「うん。……なにこれ」
中に入っていた茶色っぽい石は、手に取ると、とても軽い。
綿を持っているみたいだ。
「かるいでしょう!」
「うん!」
「たおるを、ぽんぽん、してみてください!」
「うん。あ」
さっそく、とタオルに近づけたら、石は粉々にくだけて地面に落ちてしまった。
「くずれちゃった」
「そうなんです! これは、とってもこわれやすいんです! そうっと、やってみてください!」
「うん」
今度は、そうっと、そうっと。
「おっ」
タオルにつけると見るからに、石の周囲の色が薄くなる。
石を持っている手の、甲でさわってみると、そこだけすっかりかわいていた。
「スライムさん! かわいたよ、あ」
ちょっと力が入ったら、石はくだけて、タオルの間にちらばってしまった。
しかもとても細かくて、タオルの布のすき間のようなところに入り込んでしまっていた。
パタパタやっても、とれない。
「洗わないとだめかな」
「しっぱいですか……。すみません」
「スライムさんは悪くないよ! それより、こんなにくだいちゃって、代金を払わないと。ふたつで20ゴールドだっけ?」
ちょっとおこづかいが減るけれども、しょうがない。
「いいんですよ! ぼくとえいむさんのなかじゃないですか!」
「親しき仲にも、えーと……。友だちでもお金はちゃんとしないとだめなんだよ」
「そうですか? きがひけますねえ……」
「商売なんだから!」
私は言いながら、粉のようになった石を、片付けようと下を見た。
「あれ?」
こぼれたところの土が、すっかりかわいていた。
「かわいてるよ」
「そうですね! そういう、いしですので!」
「ねえ、これって、使えるんじゃない?」
「なんですか?」
「えっと、スコップある?」
「すごいです!」
スライムさんは、ぴょんぴょんはねて、喜んでいた。
「うまくいったね」
私は、スコップですくった石の粉を、お店の前にあった水たまりに入れてみた。
すると思ったとおり、水はすぐにかわいて、水たまりはなくなったのだ。
「えいむさんは、いつか、おおきなことをやってくれるとおもってましたよ」
「そんなに大きくないけど」
よく見ると、水を吸ったはずの細かくなった石は、さっきまでと変わらずかわいたままだった。
「スライムさん、これ、石が水を吸ってるわけじゃないの?」
「よくわかりませんけど、かわかす、てつだいをするみたいです」
「ふうん。何回か使ったら、終わりなんだよね?」
「そうです! 5かいくらいです!」
「よかった」
石が永遠に効果を発揮するのだとしたら、風でどこかに飛んでいってしまったとき、池が干上がってしまったり、なにか大変なことにつながるかもしれない。
でもそのうち効果がなくなるなら、平気だろう。
「じゃあ、たまにここに石を砕いて置いておけば、水たまりはできなくなるよ」
「あんしんしました! ぼくは、あんしんしました! そう……、あんしんです!」
「……ねえスライムさん、これ、お店のカウンターで売ってみれば?」
「どうしてですか?」
「水たまりとか、そういうものに使いたい人がいるかもしれないでしょ?」
「なるほど! ならべます!」
次の日から、よろず屋にならべるようになったら、ついでに買っていってくれる人が、少しずつ現れているという話だった。
めずらしくスライムさんはお店の前にいて、キョロキョロしながら歩いている。
「こんにちは、スライムさん」
私が言うと、スライムさんは動きを止め、こっちを見た。
「どうもどうも! おさんぽですか!」
「ちょっと気になったことがあってお店に来たの。スライムさんはなにしてたの?」
「みずたまりが、ありましてねえ……」
「ああ」
最近は雨が多いこともあって、お店の前や、近くの道に水たまりができていた。
「水たまりがどうしたの?」
「ぼくのばあい、うっかりはいってしまうと、みずをすって、やや、おおきくなってしまうので」
「そっか。じゃまだよね」
「つちでうめるのも、めんどうですし……。ところで、えいむさん! きになったことって、なんですか!」
「あ、うん。ほら、昨日洗たくものがかわかない、っていう話、したでしょ?」
「はい! にんげんは、はだがかいちばん! というおはなしですね?」
「はだかはあきらめよう、っていう話だよ。えっと、それで、この前、かわきのいし、っていうの、あったでしょ?」
スライムさんの水分がすっかり抜けてしまったり、私の指まで大変なことになった事件の原因となった石だ。
「あれはあぶないですよ! くせになりましたか?」
「あれじゃなくて、あれより力が弱い、ちょっとかわく石、ってない?」
「よわいものですか?」
「いろいろな効果の石あるんでしょ?」
「はい!」
「効果の強さの差も、あるかなと思って」
「ははあ、たしかありますね。なんどもつかえる、というわけではないですけど、そのぶん、おやすいです」
「そうなの?」
「ひとつ、10ごーるどです!」
めずらしく、本当に安い。
「それ見たい」
「わかりました! さがしてみます!」
スライムさんはお店の中に入っていった。
それから私は、お店の裏の、薬草の様子を見に行ったり、スライムさんが新入荷した果実薬草をもらって食べたりしながらしばらく待った。
まだ時間がかかるというので、いったん帰って、洗たくものから、ぬれたタオルを持ってもどってきたところで、スライムさんが出てきた。
「いやー、ありましたありました!」
スライムさんが、頭に箱をのせてお店から出てきた。
かわいている地面に置いた。
「おつかれさま」
「どうぞ!」
スライムさんくらいの大きさがある、しっかりした紙の箱だった。
箱を開けると、直径が硬貨くらいの大きさの小石がたくさん入っていた。
どれも、球に近い、まんまるの形だった。
「こんなにたくさん、運ぶの大変だったでしょ?」
「ぜんぜんです! もってみてください!」
「うん。……なにこれ」
中に入っていた茶色っぽい石は、手に取ると、とても軽い。
綿を持っているみたいだ。
「かるいでしょう!」
「うん!」
「たおるを、ぽんぽん、してみてください!」
「うん。あ」
さっそく、とタオルに近づけたら、石は粉々にくだけて地面に落ちてしまった。
「くずれちゃった」
「そうなんです! これは、とってもこわれやすいんです! そうっと、やってみてください!」
「うん」
今度は、そうっと、そうっと。
「おっ」
タオルにつけると見るからに、石の周囲の色が薄くなる。
石を持っている手の、甲でさわってみると、そこだけすっかりかわいていた。
「スライムさん! かわいたよ、あ」
ちょっと力が入ったら、石はくだけて、タオルの間にちらばってしまった。
しかもとても細かくて、タオルの布のすき間のようなところに入り込んでしまっていた。
パタパタやっても、とれない。
「洗わないとだめかな」
「しっぱいですか……。すみません」
「スライムさんは悪くないよ! それより、こんなにくだいちゃって、代金を払わないと。ふたつで20ゴールドだっけ?」
ちょっとおこづかいが減るけれども、しょうがない。
「いいんですよ! ぼくとえいむさんのなかじゃないですか!」
「親しき仲にも、えーと……。友だちでもお金はちゃんとしないとだめなんだよ」
「そうですか? きがひけますねえ……」
「商売なんだから!」
私は言いながら、粉のようになった石を、片付けようと下を見た。
「あれ?」
こぼれたところの土が、すっかりかわいていた。
「かわいてるよ」
「そうですね! そういう、いしですので!」
「ねえ、これって、使えるんじゃない?」
「なんですか?」
「えっと、スコップある?」
「すごいです!」
スライムさんは、ぴょんぴょんはねて、喜んでいた。
「うまくいったね」
私は、スコップですくった石の粉を、お店の前にあった水たまりに入れてみた。
すると思ったとおり、水はすぐにかわいて、水たまりはなくなったのだ。
「えいむさんは、いつか、おおきなことをやってくれるとおもってましたよ」
「そんなに大きくないけど」
よく見ると、水を吸ったはずの細かくなった石は、さっきまでと変わらずかわいたままだった。
「スライムさん、これ、石が水を吸ってるわけじゃないの?」
「よくわかりませんけど、かわかす、てつだいをするみたいです」
「ふうん。何回か使ったら、終わりなんだよね?」
「そうです! 5かいくらいです!」
「よかった」
石が永遠に効果を発揮するのだとしたら、風でどこかに飛んでいってしまったとき、池が干上がってしまったり、なにか大変なことにつながるかもしれない。
でもそのうち効果がなくなるなら、平気だろう。
「じゃあ、たまにここに石を砕いて置いておけば、水たまりはできなくなるよ」
「あんしんしました! ぼくは、あんしんしました! そう……、あんしんです!」
「……ねえスライムさん、これ、お店のカウンターで売ってみれば?」
「どうしてですか?」
「水たまりとか、そういうものに使いたい人がいるかもしれないでしょ?」
「なるほど! ならべます!」
次の日から、よろず屋にならべるようになったら、ついでに買っていってくれる人が、少しずつ現れているという話だった。