「おかね、とはなんだとおもいますか?」
よろず屋で、スライムさんがくれた、果物薬草、という薬草を食べていたらスライムさんが急に言った。
「えっと……。この薬草、おいしいね」
「そうでしょう! かじつの、ほうじゅんなかおりと、あまさ、すいぶんりょう、! すばらしいです!」
スライムさんの言うとおり、薬草というよりは、薄い果実という感じで、口に入れるとみずみずしい果汁があふれてくる。
「もっと食べてもいい?」
「どうぞどうぞ!」
「うん。おいしい」
「ぼくもたべていいですか?」
「もちろん! だってスライムさんのだもん」
「ですよね!」
「それでなんだっけ」
私が言ったら、スライムさんは口に入れた果実薬草を、お皿にもどした。
「こほん。……おかね、とはなんだとおもいますか?」
スライムさんは言った。
「お金は、えっと……、ものと交換するためのもの?」
「そうです!」
「当たった」
「では、これをごらんください」
下に降りたスライムさんが、カウンターの上にもどってきて硬貨をならべた。
銀色の硬貨の表面には、笑っているスライムさんの図柄が描かれていた。
「これは?」
「すらいむこいんです!」
「スライムコイン」
「ちゅうもんして、つくってもらいました」
「へー、スライムさんと似てる」
「おかねとしてつかえますよ!」
「ええ?」
私はスライムコインを手にとってみた。
大きめの硬貨で、100ゴールド硬貨くらいある。
「もちろん、ぼくのおみせでだけでつかえる、おかねですよ!」
「なんだ、そうだよね」
「これをあげます。10ごーるどです!」
「いいの? どうも」
私が言うと、コインがピカッと光った。
「ん?」
「えいむさんは、いつもはおかねをもらってくれないのに、これはもらってくれるんですね」
「割引券みたいなものでしょ?」
いくらの価値があるかわからないけど、私はいちおうこのお店の常連でもあるし、そういう券がもらえたとしても不思議じゃない。
薬草が一回タダ、みたいなことだ。
それに、あんまりお金という気がしない。
たぶん、記念にとっておくだろう。
「このおかねがすごいところを、おしえてあげましょう」
「すごいところ?」
「うらをみてください」
私はコインを裏返した。
「ん?」
コインの裏には、小さな字で……。
「これ、私の名前?」
私のフルネームが書いてあった。
「そうです」
「どうして?」
「このこいんは、もちぬしのなまえが、かきこまれるしくみになっているんです!」
「ええ!」
私はもう一度しっかりと見た。
たしかに私の名前だ。
そういえば、さっきもらったとき、光った気がする。
「つよくおすと、なまえが、うかびあがります」
「え? ……わっ」
私の名前が空中にぼんやり浮かび上がった。
「もちぬしの、なまえのかくにんができますので、こうすれば、ぬすまれたとしても、だれのおかねかはっきりしてますから、ほかのひとがつかうことはできないのです!」
「すごい」
「ふっふっふ」
「裏面が名前でいっぱいになっちゃったらどうするの?」
「ふるいなまえはちいさくなって、あたらしいなまえがおおきくなります。とても、くふうしたまほうが、つかわれています」
「へえ」
読めなくなったら、強く押せばいいわけだ。
「さらに、この、なまえをかくにんしないと、おかねがはらえないはこ、をつかうと、さらにあんぜんになるのです!」
スライムさんは、カウンターの上に置いてあった箱を、ぽんぽん、とやった。
「だれのおかねなのか、しっかりわかるようになると、どうなるとおもいますか?」
私は考えてみた。
他人の名前が書いてあるお金なら、使おうと思っても難しいだろう。
ということは。
「……どろぼうのしんぱいが、ない?」
「そのとおりです!」
スライムさんは言った。
「すごいね」
「ゆくゆくは、せかいじゅうに、ひろめたいところです!」
「すごい!」
「えいむさんのおかねも、このおかねにかえませんか!」
「ちょっと興味ある」
「やりました!」
スライムさんがぴょんぴょん、とびはねた。
「ぼくも、えいむさんにみとめられるなんて、いきつくところまで、きました……!」
「私は何者なの?」
それはともかく、今回のスライムさんはちょっとすごいのではないだろうか。
これをみんなが使うようになったら、本当に泥棒がなくなるかもしれない。
それに、なにか他にもいいことがあるようにも思う。
信用してもらえるというか……。
「これ、王様とか、そういう人に提案したほうがいいんじゃない?」
「ぼくもそうおもったのですが、ことわられました」
「どうして?」
「わかりません。おそらく、きとくけんえき、がからんでいるのでしょう」
「キトクケンエキ?」
「そうです。ふるくからあって、おかねがからむものには、それがかんけいしています。きとくけんえき。いってみてください」
「キトクケンエキ」
「そうです。きとくけんえき」
「キトクケンエキ」
「そうです。これでえいむさんも、きとくけんえき、をりかいしました」
「ふうん」
ちょっとわからない。
「とにかく、だめだったんだね……。残念」
「はい」
「このお店の分は、つくるんでしょ?」
「はい! でも、どうぐやさんとか、これをどうにゅうしないかと、ていあんしたひとには、ことわられてしまいました」
「どうしてかな……」
お店には、便利だと思うんだけど。
「10ごーるどこいんをつくるのに、1まんごーるどかかるっていったら」
「それだ!」
「え?」
「じゃあ、この、お金を安全に払うための箱は、いくらなの?」
「100まんごーるどかかります」
「それだ!!」
「ええ!?」
スライムさんは、体を斜めにして悩んでいた。
「だって、お金を使うために、お金を全部使っちゃったら、お金がなくなっちゃうでしょ?」
「ほう……。いいこといいますね、えいむさん」
「そう?」
「お金がかからない方法って、ない?」
「ありませんね。このよのなかのものは、すべてに、おかねがかかるようにできているのです」
「そっか……」
残念だ。
「でももったいないね。お金をつくるのに、お金がかからなければいいんだけどね。実際の形じゃなくて、仮に、あることにするとか」
「かりに、ですか?」
「うん。お金ごっこかな」
「そんなことができたらすごいですね」
たしかに、そんな約束事でお金が払えるなら、犯罪なんてない世界かもしれない。
それとも、そんな約束事を達成するための方法があるだろうか。
魔法では難しいだろうし……。
「うーん」
「うーん」
よくわからない。
考えるのにつかれたらあまいものが欲しくなったので、果実薬草をおいしく食べた。
「おいしいですね!」
「そうだね!」
よろず屋で、スライムさんがくれた、果物薬草、という薬草を食べていたらスライムさんが急に言った。
「えっと……。この薬草、おいしいね」
「そうでしょう! かじつの、ほうじゅんなかおりと、あまさ、すいぶんりょう、! すばらしいです!」
スライムさんの言うとおり、薬草というよりは、薄い果実という感じで、口に入れるとみずみずしい果汁があふれてくる。
「もっと食べてもいい?」
「どうぞどうぞ!」
「うん。おいしい」
「ぼくもたべていいですか?」
「もちろん! だってスライムさんのだもん」
「ですよね!」
「それでなんだっけ」
私が言ったら、スライムさんは口に入れた果実薬草を、お皿にもどした。
「こほん。……おかね、とはなんだとおもいますか?」
スライムさんは言った。
「お金は、えっと……、ものと交換するためのもの?」
「そうです!」
「当たった」
「では、これをごらんください」
下に降りたスライムさんが、カウンターの上にもどってきて硬貨をならべた。
銀色の硬貨の表面には、笑っているスライムさんの図柄が描かれていた。
「これは?」
「すらいむこいんです!」
「スライムコイン」
「ちゅうもんして、つくってもらいました」
「へー、スライムさんと似てる」
「おかねとしてつかえますよ!」
「ええ?」
私はスライムコインを手にとってみた。
大きめの硬貨で、100ゴールド硬貨くらいある。
「もちろん、ぼくのおみせでだけでつかえる、おかねですよ!」
「なんだ、そうだよね」
「これをあげます。10ごーるどです!」
「いいの? どうも」
私が言うと、コインがピカッと光った。
「ん?」
「えいむさんは、いつもはおかねをもらってくれないのに、これはもらってくれるんですね」
「割引券みたいなものでしょ?」
いくらの価値があるかわからないけど、私はいちおうこのお店の常連でもあるし、そういう券がもらえたとしても不思議じゃない。
薬草が一回タダ、みたいなことだ。
それに、あんまりお金という気がしない。
たぶん、記念にとっておくだろう。
「このおかねがすごいところを、おしえてあげましょう」
「すごいところ?」
「うらをみてください」
私はコインを裏返した。
「ん?」
コインの裏には、小さな字で……。
「これ、私の名前?」
私のフルネームが書いてあった。
「そうです」
「どうして?」
「このこいんは、もちぬしのなまえが、かきこまれるしくみになっているんです!」
「ええ!」
私はもう一度しっかりと見た。
たしかに私の名前だ。
そういえば、さっきもらったとき、光った気がする。
「つよくおすと、なまえが、うかびあがります」
「え? ……わっ」
私の名前が空中にぼんやり浮かび上がった。
「もちぬしの、なまえのかくにんができますので、こうすれば、ぬすまれたとしても、だれのおかねかはっきりしてますから、ほかのひとがつかうことはできないのです!」
「すごい」
「ふっふっふ」
「裏面が名前でいっぱいになっちゃったらどうするの?」
「ふるいなまえはちいさくなって、あたらしいなまえがおおきくなります。とても、くふうしたまほうが、つかわれています」
「へえ」
読めなくなったら、強く押せばいいわけだ。
「さらに、この、なまえをかくにんしないと、おかねがはらえないはこ、をつかうと、さらにあんぜんになるのです!」
スライムさんは、カウンターの上に置いてあった箱を、ぽんぽん、とやった。
「だれのおかねなのか、しっかりわかるようになると、どうなるとおもいますか?」
私は考えてみた。
他人の名前が書いてあるお金なら、使おうと思っても難しいだろう。
ということは。
「……どろぼうのしんぱいが、ない?」
「そのとおりです!」
スライムさんは言った。
「すごいね」
「ゆくゆくは、せかいじゅうに、ひろめたいところです!」
「すごい!」
「えいむさんのおかねも、このおかねにかえませんか!」
「ちょっと興味ある」
「やりました!」
スライムさんがぴょんぴょん、とびはねた。
「ぼくも、えいむさんにみとめられるなんて、いきつくところまで、きました……!」
「私は何者なの?」
それはともかく、今回のスライムさんはちょっとすごいのではないだろうか。
これをみんなが使うようになったら、本当に泥棒がなくなるかもしれない。
それに、なにか他にもいいことがあるようにも思う。
信用してもらえるというか……。
「これ、王様とか、そういう人に提案したほうがいいんじゃない?」
「ぼくもそうおもったのですが、ことわられました」
「どうして?」
「わかりません。おそらく、きとくけんえき、がからんでいるのでしょう」
「キトクケンエキ?」
「そうです。ふるくからあって、おかねがからむものには、それがかんけいしています。きとくけんえき。いってみてください」
「キトクケンエキ」
「そうです。きとくけんえき」
「キトクケンエキ」
「そうです。これでえいむさんも、きとくけんえき、をりかいしました」
「ふうん」
ちょっとわからない。
「とにかく、だめだったんだね……。残念」
「はい」
「このお店の分は、つくるんでしょ?」
「はい! でも、どうぐやさんとか、これをどうにゅうしないかと、ていあんしたひとには、ことわられてしまいました」
「どうしてかな……」
お店には、便利だと思うんだけど。
「10ごーるどこいんをつくるのに、1まんごーるどかかるっていったら」
「それだ!」
「え?」
「じゃあ、この、お金を安全に払うための箱は、いくらなの?」
「100まんごーるどかかります」
「それだ!!」
「ええ!?」
スライムさんは、体を斜めにして悩んでいた。
「だって、お金を使うために、お金を全部使っちゃったら、お金がなくなっちゃうでしょ?」
「ほう……。いいこといいますね、えいむさん」
「そう?」
「お金がかからない方法って、ない?」
「ありませんね。このよのなかのものは、すべてに、おかねがかかるようにできているのです」
「そっか……」
残念だ。
「でももったいないね。お金をつくるのに、お金がかからなければいいんだけどね。実際の形じゃなくて、仮に、あることにするとか」
「かりに、ですか?」
「うん。お金ごっこかな」
「そんなことができたらすごいですね」
たしかに、そんな約束事でお金が払えるなら、犯罪なんてない世界かもしれない。
それとも、そんな約束事を達成するための方法があるだろうか。
魔法では難しいだろうし……。
「うーん」
「うーん」
よくわからない。
考えるのにつかれたらあまいものが欲しくなったので、果実薬草をおいしく食べた。
「おいしいですね!」
「そうだね!」